寅さんが「何度でも失敗が許される」本当の理由 渡る世間には「ケアと就労」2つの原理が必要だ

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寅さんは2つの原理を行ったり来たりしながら生きていく人でした(写真:キャプテンフック/PIXTA)

新型コロナウイルス感染予防のため、「不要不急の外出の自粛」が叫ばれたことは記憶に新しいでしょう。なんとなく食べてみたい、なんとなく会って話したい、なんとなくいつもと違う道で帰りたい。「不要不急」とはこの「なんとなく」のことなのだと、自粛という名の事実上の禁止令が出たことで改めて気が付きました。そして「なんとなく」という個人的で直感的な感覚こそ、ぼくたちそれぞれの生活の豊かさを支えていたことも。

とても息苦しく窮屈な「1つの原理」

しかし本来ぼくたちが大切にしなければならないこのような感覚は、新型コロナウイルス感染予防という「万人にとって必要なこと」にいとも簡単にとって代わられてしまったのです。

「万人」というバーチャルな存在は、実態がないだけに強い刺激となって社会に影響を与えました。そもそも人は友人、家族、同僚、遠い親戚から近くの他人まで、さまざまな人たちとの関わり合いのなかで生きています。このような関わり合いは、ぼくたちの身に「万人」という強い直射日光が降り注ぐのを防いでくれる、オゾン層のようなものだったのです。

しかし「不要不急の自粛」の号令は関わり合うことを難しくし、「万人」という原理によって社会を統一してしまいました。1つの原理による社会の統一は、ぼくたちの生活をとても息苦しく、窮屈なものにしました。

この経験から、ぼくは生きていくうえで「2つの原理」を併せ持つことの重要性を痛感したのでした。もちろん「2つの原理」の間には、個人と万人の間にさまざまな中間的集団があるように、ゆるやかな連続性が存在しています。生と死、公と私、男と女、親と息子、資本主義と社会主義、都市と村なども、つねに2つのうちのどちらかを選ばねばならないわけではありません。生活の場面場面で「2つの原理」を想定することで、ぼくたちの生きる選択肢がより具体的になり、自由度を上げてくれるのです。

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