テレビに出る研究者が「優柔不断」に映る納得事情 何でもズバッと言い切る専門家は話題になるが…

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研究者がテレビで歯切れの悪い発言をしてしまう背景とは(写真:Fast&Slow/PIXTA)
テレビに登場するサイエンスの研究者といえば、メガネに白衣の姿で、自身の専門分野を難しい言葉で解説する――。そんなイメージを持つ人が少なくないでしょう。日常生活で接することがあまりない研究者はどんなことを考えているのか、脳研究者の毛内拡氏の著書『脳研究者の脳の中』から一部抜粋してお届けします。

研究者が歯切れの悪い発言をする事情

研究者が教育を受けてきた結果、どういう考え方、思考法をするようになっているかについて見ていきましょう。まず、研究者ってなんであんなに回りくどい、理屈っぽい言い方をするのでしょうか。テレビなどで専門家と呼ばれる人が出演するのを見る機会がありますが、多くの人が感じていることだろうと思います。

「その可能性は否定できない。ないとは言い切れない」のように、見方によっては〝歯切れの悪い〟表現を耳にしたことがあるのではないでしょうか。「あるの? ないの? どっちなの!」と歯痒い気持ちになるのも理解できますし、本当にこの人は専門家なのという批判を耳にすることも多々あります。

しかし、しっかり教育を受けた専門家(研究者)であればあるほど、ものの言い方が慎重になるのは確かです。研究というのは、白か黒かではっきり色分けしていくというよりは、「こういう条件の場合では、そうなる傾向にある」というようにグラデーションをつけていくような作業です。そう主張できる確固たる証拠がない限りは、断定することは難しいものです。ですから、その主張は本当か、論理展開に穴があるのでは、見落としている点があるのではと、徹底的に疑うわけです。

何かが「ない」ということは、現代の科学ではほぼ不可能です。たった1つでも反例、つまりその主張に合わない事実が出てきたらその主張はもう成り立たないからです。なので、現時点では「ない証拠」が集まってきているが、「ある」可能性も否定できない。ないとは言い切れない、という言い方になるのです。断言することは、本当に難しいことです。

一方、視聴者が求めているのは、専門家にズバズバと白黒つけてもらうことなのだろうな、というのも理解できます。曖昧な言い方で濁している感じがしますし、すごく頼りなく、まるで責任回避しているかのよう。本当に専門家なのか、と疑いたくなる気持ちもわかります。しかし、ちゃんとした専門家ほどそれはできないものなのです。

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