「甲子園夢プロジェクト」が導いたある若者の一歩 たった一打席だが野球のダイバーシティを実現

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林龍之介君の打席
林龍之介君の打席での様子(筆者撮影)

阪神甲子園球場で開催されている夏の甲子園、第104回全国高等学校野球選手権がいよいよ決勝を残すのみになった。出場校は49。全国の参加校は3547校だから3545校はすでに「夏」が終わっているが、この中に「歴史的な一歩」を記した若者がいる。

筆者は昨年10月、このコラムで「甲子園夢プロジェクト」について紹介した。このプロジェクトは、東京都立青鳥特別支援学校の久保田浩司主任教諭がはじめた。久保田教諭は2021年、全国の知的障碍のある子と保護者に向けて“甲子園目指して野球をやりませんか”という呼びかけを行った。全国から予想以上の反響があり「甲子園夢プロジェクト」を設立するに至った。

昨年3月27日以降、練習会を続けた。久保田教諭は昨年『甲子園夢プロジェクトの原点』という本も著し、全国の特別支援学校が県高野連に加盟し、甲子園の予選にチャレンジすることの意義を訴えかけた。

夢プロジェクト第一号となった林君

この取り組みはメディアでも大きく取り上げられたが、率直に言って、久保田教諭や関係者は「甲子園の予選に出場できるのは、まだ数年先のことだろう」と思っていた。ところが、今年5月、プロジェクトに参加していた林龍之介君が通う愛知県立豊川特別支援学校が、選手権愛知県大会への出場を許可されたとの話が入ってきた。龍之介君の父の林紀成さんは、新聞で「甲子園夢プロジェクト」の記事を読み、大の中日ファンだった龍之介君に伝えたところ「ぜひ参加したい」となって、久保田教諭に連絡し
た。

林龍之介君
林龍之介君(筆者撮影)

林君はこのプロジェクトの選手第1号となり、以後、東京、関東地区で練習会があるたびに、林君は父親または母親が付き添って参加した。プロジェクトに参加してから、林君は毎日バットを振った。

練習のしすぎで腰椎分離症になり、2回も治療のため練習を中断した。紀成さんは「やりすぎないように」龍之介君をセーブするのが任務になった。

龍之介君は、甲子園を目指して予選に出たいと思うようになった。しかし、豊川特別支援学校に野球部はない。林君の両親は部の設立を学校に働きかけた。幸い、教員は理解があり、4月に野球部を設立することになり杉山徹教諭が部長になった。

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