日本は中国の「地縁経済」戦略にどう対抗できるか 野放図な影響力を制御する地経学的アプローチ

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「政経分離」が主流であった日中関係。これからの対中戦略はどうあるべきか(写真:freeangle/PIXTA)

2022年は世界史に残る1年となるだろう。2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始したことに加え、8月上旬に中国が台湾周辺海域での大規模軍事演習を実施したことで国際情勢は一変した。軍事力の脅威を眼前にし、欧州およびアジア各国は自国防衛と安全保障上の連携強化に向けて迅速に動いている。さらに状況を複雑にしているのが、これらの軍事的緊張と並行して経済安全保障上の懸念が高まっている点である。

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中国やロシアとのサプライチェーンや貿易における経済的切り離しを安全保障に関わる領域で進める、いわゆる「部分的デカップリング」の動因が強まり、世界経済の構造転換を後押ししている。こうした政治と経済が密接にリンクした状況への分析アプローチとして「地経学」は有用である。

日中関係の「地経学」史を振り返るならば、実は政治問題と経済協力を切り離す「政経分離」が主流であった時期が長い。それは両国の地理的近接性が利点として認識されながらも、冷戦構造の下で政治選択が限定された結果である。1972年に日中国交正常化を果たす以前、「政経分離」の原点は台湾と政治関係を維持しながら大陸中国との経済交流を進めることを眼目とした。

すなわち「政経分離」は対中国・台湾関係を両立させるための現実的アプローチであった。1980年代以降に歴史認識問題が、2000年代後半からは尖閣諸島問題が摩擦のタネとなっても、両国は経済的な相互依存を維持し、むしろ政治から距離を置いた経済の確保が双方の利益になっていた。そうした関係を支えた時代背景として経済領域における国境の希薄化、すなわちグローバル化の進展があったことは言うまでもない。

国交正常化から50年の時を経たいま、効率重視の新自由主義が後退し、政治と経済が改めて不可分となりつつある。世界的な経済減速を受けて「自国ファースト」に象徴される保護主義も強まっている。しかし日本経済は中国抜きには成り立たない。これからの対中戦略はどうあるべきだろうか。

中国におけるジオエコノミクス

日本で地経学として定着したジオエコノミクス(Geoeconomics)の分析視角は、1990年代に中国にも導入され、国際政治学のはやり言葉の1つにもなった。ジオエコノミクスという言葉は「地縁経済学」あるいは「地理経済学」と訳出され、基本的に地理学と経済学の融合した研究領域として位置づけられている。

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