キリンの「ミャンマー撤退」に透ける大きな誤算 成長を急ぐ海外事業はブラジルに次ぐ失敗に

拡大
縮小
ミャンマー撤退に向けて、株式売却の基本合意を結んだことを明らかにしたキリンホールディングス。発表された撤退手法からは、誤算とリスクが見え隠れする(編集部撮影)

最後のフロンティアは、もろくも崩れ去った。

ビール大手のキリンホールディングス(HD)は6月30日、現地企業と合弁で展開するミャンマーのビール会社「ミャンマー・ブルワリー」について、保有株式の売却に向けた基本合意を結んだことを発表した。キリンHDが保有する51%の株式を、ミャンマー・ブルワリーが自己株取得するかたちで撤退する。

株式の譲渡価格は約224億円。キリンHDは2015年に、ミャンマー・ブルワリーを5億6000万ドル(当時の為替レートで約697億円)で買収した。今まで得てきた配当金などを勘案しても、買収額の3分1程度は回収のメドが立たないまま撤退することとなる。

現地シェア8割で安定成長を続けたが…

ミャンマー・ブルワリーは、現地のビール市場でシェア8割を誇る最大手。キリンHDは2015年の同社買収を機に、ミャンマー市場への参入を果たした。

長らく軍政が続いていたミャンマーでは、2011年3月に民政移管が実現した。当時は経済成長が大きく見込める「最後のフロンティア」(キリンHDの西村慶介副社長)として、多くの外資系企業がミャンマーに熱視線を向けていた。ミャンマー・ブルワリーは2020年12月期に事業利益でキリンHD全体の約9%を稼ぐなど、安定的な成長を続けていた。

事態が急変したのは2021年2月のことだ。ミャンマーで軍事クーデターが勃発。国軍による、抗議する市民への弾圧や殺害が相次いだのだ。

キリンHDにとって、クーデターは他人事では済まされなかった。ミャンマー・ブルワリーには、ミャンマーの国軍系企業「ミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)」が49%出資していたためだ。MEHLを通じて、ミャンマー・ブルワリーからの配当金がミャンマー国軍へと流れているといった指摘もあり、国軍への反発が大きい現地では、市民らによるミャンマー・ブルワリーの不買運動も発生した。

次ページ第三者への売却をあきらめた理由
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【逆転合格の作法】「日本一生徒の多い社会科講師」が語る、東大受験突破の根底条件
【逆転合格の作法】「日本一生徒の多い社会科講師」が語る、東大受験突破の根底条件
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT