「勝手にシンドバッド」が強烈な印象を残した必然 「砂まじりの茅ヶ崎」からの歌詞が歴史を動かした

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茅ヶ崎と江の島が歌詞に登場する楽曲に日本中が熱狂、今も歌い継がれる名曲だ(写真:MediaFOTO/PIXTA)
「胸さわぎの腰つき」の衝撃から44年。以来ずっと桑田佳祐は自由に曲を書き、歌ってきた。日本語を巧みにビートに乗せ、「誘い涙の日が落ちる」といった独創的な言葉を紡ぐ。情感豊かな歌詞で日本人の心を鷲づかみしながら、エロくキワどい言葉を投げ、愛と平和を正面から訴える。はたして桑田佳祐は何を歌ってきたのか――。サザンとソロの全作品のうち、26作の歌詞を徹底分析したスージー鈴木氏の新著『桑田佳祐論』から一部抜粋、再構成してお届けする。(文中敬称略)
サザンオールスターズ《勝手にシンドバッド》
作詞:桑田佳祐、作曲:桑田佳祐、編曲:斉藤ノブ&サザンオールスターズ
シングル、1978年6月25日

「砂まじりの茅ヶ崎」

「そのとき歴史が動いた」という言い方は、今や、ありとあらゆる歴史本における常套句となっているが、少なくとも日本ロック史において、この《勝手にシンドバッド》という曲が、歴史をググッと動かしたということに、異論を挟む向きは少ないだろう。

日本ロック史の転換点。《勝手にシンドバッド》以前/以後──。 

そんな《勝手にシンドバッド》の歌い出し、つまり革命へのはじめの一歩が、この「砂まじりの茅ヶ崎」という8文字、「すなまじりのちがさき」と音にして10文字なのである。

あえて音にしたのは、1番の終わりが「胸さわぎの腰つき」(むなさわぎのこしつき)と、こちらも10文字で締められていて、さらに「すなまじりのちがさき」「むなさわぎのこしつき」と音韻的にもかなり近似しているからである。「歌詞よりもリズムやメロディ優先で作っている」と思われがちな桑田佳祐だが、このデビュー曲の歌詞については、かなり周到に仕組まれていることが分かる。

ここで注目したいのは、「茅ヶ崎」という具体的な地名の導入について。というのは、今でこそ茅ヶ崎は「湘南」エリアを代表する地名だが、1978年当時はそれほどメジャーな地名ではなかった。いくら自身の生まれ故郷とはいえ、デビュー曲の歌い出しに「茅ヶ崎」は、さすがに唐突だと思うのだ。

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