「熊本の地元紙」サッカー部暴力報道で見せた執念 秀岳館問題でスクープ連発、熊日新聞の舞台裏

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秀岳館高校サッカー部の暴力動画問題。いくつものスクープで問題に迫ってきた地元紙・熊本日日新聞の取り組みとは?(写真:筆者撮影)
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熊本県にある私立秀岳館高校。4月20日、サッカー部の30代男性コーチが3年生部員に暴行した動画がSNSで拡散。それについて部員11人が顔と名前を出して謝罪する動画が部のアカウントから発信(現在は削除)され、それに段原一詞前監督(49)が関与していたことも明らかに。加えて、段原前監督が民放局の番組出演時に虚偽の証言をするなどし、大きな騒動になった。

なぜ熊日は地元高校の問題をここまで報じられたのか

この問題について、地元紙である熊本日日新聞(以下、熊日)は、ほぼ毎日この問題を報道。ひと月で30数本もの記事を掲載してきた。

一連の騒動の中、入学前から練習に参加していた県外出身の中学3年(当時)の男子生徒が上級生から暴行を受け、入学辞退に追い込まれたうえ1カ月以上たっても別の高校に進学できず浪人状態になっていることが発覚した。これらを独自ネタとして報じたのも熊日だ。

今回熊日が報じた秀岳館に関する記事の中にはネット上で4000から5000という多数のコメントがついたものも。いち地方紙の記事がそれだけの反響を呼ぶのは、稀有な現象だ。

筆者は長く青少年のスポーツについて取材しているが、スポーツの強豪校と地元メディアの結びつきは強く、地方の学校で不祥事があっても報じられにくく、全国にも伝わりづらいという感覚を抱いてきた。

なぜ熊日はここまで地元高校の問題を報じることができたのか。

熊日の取材班のひとりである植木泰士記者(33)はこう説明する。

「スポーツの話だと通常、運動部の記者が取材に動きますが、秀岳館で起きたのは暴行疑いが濃厚な事件です。最初は高校のある八代支社の記者が取材して記事を出し、その後は社会部の私も加わりました。他部署も含め総出で取り組んでいます」

4月20日に暴行があり、その様子を捉えた動画が同じ日のうちにアップされたが、熊日はその日のうちに動画の存在を把握した。動画は約6秒で、コーチが右足で部員の背後から脚付近などを蹴り上げる様子が映っていた。

翌21日に八代支社の記者が学校に取材して、事実関係を確認。つまり裏を取り、その日のうちにデジタル面に掲載。続いて22日付朝刊のテレビ欄を1枚めくった見開き3ページめの第2社会面(2社面)にも掲載された。タイトルは「男性コーチが生徒殴る動画」12字30行の記事だった。

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