軍事技術の流出めぐる北朝鮮との知られざる攻防 元スパイへ取材、暴露系情報小説の著者に聞く

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海上では北朝鮮とさまざまな攻防が展開されている(写真:白熊/PIXTA)
北朝鮮がミサイル発射実験を繰り返すなど、日本を取り巻く安全保障環境は緊張感を増している。日本と北朝鮮は水面下でどのような攻防をしているのかーー。某大手テレビ局記者の川嶋芳生氏が書いた暴露系情報小説『FOX 海上保安庁情報調査室』の売りは、海上保安庁の元日本人スパイから直接聞いた話をベースにした“リアルさ”である。同書を通じて伝えたかったことは何なのか、川嶋氏に聞いた。

軍事技術が日本から流出

――主人公の「山下」は、海上保安庁の職員で、海上ルートで密輸される麻薬の摘発や対テロ関連の捜査、北朝鮮に関連する事件や調査など、「スパイ活動」に従事しています。

「山下」は実際に会って何度も話を聞いた方がモデルです。10年以上前に知り合い、数年前に退官されました。現役の頃は表に出せなかった機密情報を、退官された今、小説という形式を取りながらギリギリのところまで出すことを許されました。またそのほかにも、複数の海上保安庁幹部から話を聞いています。

書いたことはあくまでフィクションですが、完全な空想ではなく、取材で聞いた話がベースとなっています。

――ミサイルやドローンの開発などに必要な軍事技術が、日本の民間企業や大学の研究室から北朝鮮に渡っているシーンが描かれています。

川嶋芳生 (かわしま・よしお)1970年生まれ。大学卒業後、某大手テレビ局入社。報道記者として海上保安庁を担当。2001年に東シナ海で発生した朝鮮民主主義人民共和国の不審船による九州南西海域工作船事件のほか、2017年大陸間弾道ミサイル発射など、多くの事件や事変を担当。アメリカ連邦捜査局(FBI)捜査官を取材したほか、金ファミリーや北朝鮮の現役工作員へのインタビューを敢行。現在、旧東ドイツの諜報機関・シュタージに関する取材も続けている現役のTVプロデューサー。

そうした技術にアクセスできる日本人は不遇であったりするなど、さまざまな不満を抱えているケースがあります。北朝鮮はそういう人に巧妙に近づき、甘言を弄して取り込もうとします。ハニートラップであったり、金銭の授与など古典的な手法ですが、未然に防ぐのは難しいのです。

技術の流出を阻止するために、疑わしい人間をあぶり出し、ある程度の証拠を集めてから接触します。しかしすでに北朝鮮と関係ができている場合は、慎重に動かないと、容疑者の身に危険が及ぶ可能性があります。どのようなことが起こりうるのかは小説で書いていますが、実際に事件化して表に出なくても、水面下ではいろいろと起きていると思います。

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