戦後日韓関係を舞台裏で支えた韓国知識人の独白 知日派知識人・崔書勉のオーラルヒストリー

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それ以後、金大中が野党党首になったときに福田先生が日韓協力委員会の委員長として行ったときに、金大中が「先生、あのとき以来ですね」と言ったもので、福田は非常に気持ちがよかったらしい。みんなに「金大中という野党のやつが、昔からの深い友情があるようにしてくれた」と。僕にも、「崔さん、あのとき会っといてよかったよな」と言っていました。

――福田さんが?

 はい、とても嬉しかったらしい。

韓国の人参とコニャック

――福田赳夫さんというと親韓派のイメージが結構強いんですが、それは福田さんと会っているときに、いろんなところで感じましたか。ただ単に、何か政治的な枠組みのなかで「韓国と近くするほうがいい」と思っているのか、もともと韓国に思い入れがある人なんですか。

 決定的に、「韓国は日本にとって重要だ。それを知らないやつはおかしい」と、はっきりしていました。

――そういう言い方をしていたんですね。

崔 だからいつも、「俺はね、講演でみんな声が嗄(しゃが)れたというんだけど、馬鹿なやつらだな。わしのように韓国の人参を持って来て酒に漬けて飲んでいれば、喉なんか嗄れないよ」と。それで僕は、「先生、どこに漬けて召し上がるんですか」「おーい、持ってこぉい」と、ウィスキーの濃いのを何と言うの?

――ウィスキーの濃いもの?

 コニャック。コニャックに入れて、「先生、これは邪道ですよ。コニャックに人参の力が吸い取られて意味がなくなるので、これは焼酎かウォツカでないといけませんよ」「あ、そうなのかね」と、それから変えました。それで、いつも韓国から高麗人参をいただいているので健康だと。もう一つは、毎日蕎麦を食べていると。「群馬の蕎麦というのは、いいんでね。お蔭で我々は太らないでいつも健康だ」と、蕎麦と高麗人参を威張っていました。

――「いまの日本にとって韓国は重要である。そんなことがわからないやつは馬鹿だ」みたいなことですが、どうして日本にとって韓国は重要だと考えていたんでしょうか。

 彼の政治思想がそうであったと思うんだが、もう一つはその影響はないかもしらんけれども、彼の主治医が韓国人だった。許という銀座で病院をやっている人で、彼の主治医が韓国人だった。だから、彼が韓国に来たときに李東元(編集部注:朴正熙政権時の外相)が、「先生に朝鮮の網代笠を被せたら、田舎の面長(同:町長のような役職)だ。総理大臣の相ではない」と。そうしたら福田さんが、「いや、俺のところは昔から渡来人がたくさん来て、わしはもう韓国人と同じだよ」と、平気でそんなことをよく言っていました。

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