NATO・欧米の分断を狙うプーチン大統領の戦略 ウクライナの先に西欧、アメリカを見据える

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2022年5月9日、モスクワで行われた対独戦勝記念日を祝う軍事パレードで、群衆に呼びかけるプーチン大統領(写真・AFP=時事)

長期化するロシアのウクライナ侵攻。戦況が膠着する中、ロシアが今後事態をどう打開しようとするのか。国際社会の関心はこの点に集まりつつある。しかし、明らかに正常な判断力を失っている独裁者、プーチン大統領の意図を正確に見極めるのは難しく、世界は明確な方向感覚を見失いかけている。今後ロシアが軍事的窮地に追い込まれれば、プーチン氏が核攻撃に踏み切る危険性も孕みながら、状況はますます緊張度を高めている。

国際社会を一層戸惑わせたのが、2022年5月9日にモスクワで行われた対独戦勝記念式典だ。ロシア軍の予想外の苦戦が続く中、プーチン大統領の演説は宣戦布告や戦果の発表もなく、世論に迎合するかのような配慮が目立つ内容となった。しかしその一方で侵攻の正当性を強調し、ウクライナを支援するアメリカやヨーロッパへの敵意をむき出しにして侵攻継続への揺るぎない意志も明確に打ち出した。いわば「守り」と「攻め」の姿勢が同居したのが特徴だ。

予測不可能なプーチンの言説

今後、ロシアは東部ドンバス制圧作戦に集中するのか、あるいは宣戦布告でさらに戦線を拡大するのか。読み取るのが難しい内容だった。アメリカ政府の反応はこうした戸惑いを反映していた。アメリカ議会公聴会で証言したヘインズ国家情報長官は、現在ドンバスの制圧が難航しているにもかかわらず、プーチン氏がロシア軍の優位性を確信しており、より大きい地域の制圧という「長期目標」を変えていないとの見方を示した。一方で長官は、こうしたプーチン氏の意欲と、実際のロシア軍の現状兵力の間で「不釣り合いがある」とも指摘。今後数カ月にわたって「予測不可能な事態」を覚悟しているとの見方を示した。

つまり、軍部から聞きたい情報しか報告が入らなくなっているプーチン氏の強気な戦況認識と、現状の戦力の間には相当の乖離があり、実際にロシア軍がどのような行動に出るか、アメリカ政府もわからないとの見方を示したわけだ。もちろん、この「予測不可能」という言葉には、プーチン氏が核兵器を使用するかもしれないが現段階ではわからないというニュアンスもあると思われる。

「予測不能」な状況はロシア軍でも起きつつある。2022年2月末の侵攻開始直後から、兵士の低い士気が指摘されていたが、5月に入り、兵士の間で最前線に送られるのを回避するため、意図的に自軍の車両を破壊するサボタージュ行為の発生が西側で報道され始めた。2万人以上の戦死者を出し、戦争終結の見通しも立たない中で、ロシア軍兵士からすれば、何としてでも戦闘に出たくないという厭戦心理が強まっているのは当然の流れだろう。ロシア軍にとって、頭の痛い問題だ。

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