復活したマルコス一族によるフィリピンの将来 日本とアメリカ、中国の取り込みも激化

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2022年5月9日、勝利を決めた後選挙事務所に入る“ボンボン”マルコス・ジュニア氏(写真・Bloomberg Finance LP)
フィリピン大統領選挙で故フェルディナンド・マルコス大統領の長男ボンボン・マルコス元上院議員(64)が圧勝した。マルコス一家は1986年、長期独裁体制に抗議する群衆の「ピープルパワー」によって追放されて以来、36年ぶりに大統領府マラカニアン宮殿に復帰を果たし、ボンボン氏の母イメルダ夫人(92)の悲願が叶う。

 

投票率80%という熱気

2022年5月9日の投票日。酷暑の中、多くの人々が投票所の外で長い列に並んでいた。6年に1度の大統領選挙は同時に副大統領と、全国区で選ばれる12人の上院議員、選挙区選出の下院議員のほか知事市長といった地方選挙も実施される。すべての選挙について候補者名が書かれた長い投票用紙にチェックを入れる方式なので、1人当たり投票に5分から10分はかかる。それでも人々は辛抱強く順番を待っている。投票率は80%を超し、史上最高を記録しそうな勢いだ。

あなたは誰を支持するかと聞けば、多くの人が「My president is BBM」とか「My president is Leni」と「私にとっての大統領は」とはっきり答える。この国の選挙は正規の運動期間だけでも3カ月、実質は立候補表明から半年ほど続く一大イベントだ。

選挙運動最終日の2022年5月7日には、ボンボン陣営が100万人、対抗するレニー・ロブレド副大統領陣営が70万人をマニラ首都圏に集め、お互いのシンボルカラーで街が彩られた。国政選挙の最終盤は各陣営の集会に芸能人らが多数出てきて「フェス」状態となる。お祭り騒ぎの会場に身を置けば同時に、一票にかける人々の思いの強さも感じる。

熱気冷めやらぬなかで進んだ開票で、ボンボン氏は3000万票を超す史上最多票を得て当選を確実にした。副大統領選でもタッグを組んだドゥテルテ大統領の長女サラ氏がやはり3000万票以上を獲得し、次点に3倍の差をつけた。

マルコス家の凱旋劇となった今回の選挙を見て私の頭に浮かんだのは、社会心理学者エーリッヒ・フロムの著書『自由からの逃走』である。第1次世界大戦の教訓から制定されたワイマール憲法下のドイツで人々は投票によってナチスを選び、権威主義的リーダーに身をゆだね、自ら進んで自由を捨てていった経過が分析されている。

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