ウクライナでの戦争を歴史家が楽観視しない理由 「1979年の危機」が今世界に突きつける教訓

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長期化する戦争はどこへ向かうのか――(写真:Praximon/PIXTA)
2月24日に始まったロシアによるウクライナへの侵攻。長期化する戦争はどこへ向かうのだろうか? 「いま、もっともすぐれた知性」と目される歴史家のニーアル・ファーガソン氏は、この戦争をどう分析するのか? 今回、5月に邦訳が刊行された新著『大惨事(カタストロフィ)の人類史』に収録された「日本語版刊行に寄せて」(2022年3月執筆)より、一部抜粋・編集のうえ、前半に引き続いてお届けする。

正真正銘のファシスト

3月16日にロシア国民に向けてプーチンが行った演説を観た人は誰もが気づいて身震いした。私たちが今渡り合っているのは、不器用ではあっても計算高いソ連時代のゲーム理論家でもチェスプレイヤーでもなく、正真正銘のロシアのファシストなのだ。

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ロシアは「社会の自己浄化」を実施し、「ろくでなしや裏切り者」を駆除するべきだと断言することで、プーチンはロシア国内で粛清が行われることをはっきりさせた。

なにしろ、悪いのは内部にいる背信の第5列に決まっており、けっして独裁者その人ではないのだ。

その時点まで、私は核兵器や化学兵器を使うというプーチンの脅しははったりだと考えがちだった。この脅しが効いて、バイデン政権はポーランドのミグ戦闘機をウクライナに提供するのを思いとどまった。

だが、今や私は、プーチンが掩蔽壕からどんな命令を下しかねないか、本気で心配しはじめている。

通常兵器を使う軍事行動をなんとか継続させ、切羽詰まったプーチンの焦りを和らげることを可能にするものが仮にあるとすれば、それは中国による支援だけだろう。

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