「韓国とは何か」を問い続けた「知の怪物」の思考 『「縮み」思考の日本人』著者・李御寧の日韓論

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2019年に日本の研究者による自身のオーラルヒストリー作業中の李御寧氏(写真・小針進氏提供)
韓国を代表する学者であり日本でも『「縮み」思考の日本人』というベストセラーを発表した李御寧氏が2022年2月死去した。学者という枠に収まらない精力的な行動で、日韓ともに多くのものを残した韓国の知性の代表だった。そんな李氏はどのような人物で、どのような経験や思考があったのか。生前、李氏と親交があった哲学者で京都大学大学院教授の小倉紀蔵氏が紹介する。

 

2022年2月26日に、韓国の李御寧(イ・オリョン)氏が亡くなった。享年88。「巨星墜つ」という表現に似つかわしい訃報は近年、珍しくなったが、李御寧氏の場合はまさにこの形容こそふさわしい。

日本との縁がとても深い文化人

李御寧氏は韓国の著名な学者でありオピニオン・リーダーであり、初代文化部長官(日本式にいうなら文化大臣)であった。とくに日本との関係でいうなら、『「縮み」志向の日本人』という名著中の名著の著者として長く記憶されるべき人物である。

李氏は日本で数多くの講演を行って学界だけでなく大向こうの人気もさらったし、東京大学と国際日本文化研究センターに長期滞在したり、奈良県立大学の名誉学長も歴任したので、日本とは特別にゆかりが深い。だが彼の逝去後に日本の新聞各紙など主要メディアで追悼記事が出ていないのは、なぜだろうか。寂しいかぎりである。

李氏は1934年に朝鮮の忠清南道で生まれ、ソウル大学在学中から早熟の才能をいかんなく発揮して新進気鋭の反抗的文芸評論家として活躍した。20代で『韓国日報』『朝鮮日報』という韓国を代表する主要紙の論説委員となって筆を振るうだけでなく、大ベストセラーのエッセイ集を次々に書いた。また、梨花女子大学の名物教授として韓国社会を文化的に主導していく言論活動を実に華々しく展開した。

1988年にはソウルオリンピックの総合プロデューサーを務め、開会式の演出などを担当した。21世紀を迎える2001年の前後にはミレニアム委員会を組織して、来るべき新しい1000年に文化的・思想的な意味を与えた。日中韓の知識人を大々的に集めて東アジアの知のアリーナを開いた。李御寧氏は「文化の大人(たいじん)」とも呼ぶべき傑出した人物であった。オピニオン・リーダーという、いまやあまり聞く機会も少なくなった呼称よりは、むしろ総合文化プロデューサーと呼んだほうがよいかもしれない。

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