世界初パンダ専用ミルク「日本」で開発の深い事情 かなり「ニッチ」でも製品化が実現した理由

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哺乳瓶でミルクを飲む双子の桜浜と桃浜。2015年7月7日(写真:アドベンチャーワールド提供)
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双子の赤ちゃんパンダの成長を支える「人工乳」。完成までにはいくつもの困難がありましたが、上野動物園やアドベンチャーワールド、森永乳業グループ、日本大学などが協力して、開発・改良が実現しました。開発の裏側を取材しました。

パンダのミルク事情

2021年6月23日に上野動物園で生まれた双子のジャイアントパンダのレイレイ(蕾蕾)が2022年3月14日から、シャオシャオ(暁暁)が3月19日から、お皿で人工乳を飲み始めた。

双子のパンダが生まれると、一般的に誕生間もない頃から母乳と人工乳を飲ませる。母親のパンダと飼育員が交互に育てる「入れ替え保育」(参照:『「すり替え作戦で育児」双子パンダ誕生の舞台裏』)を採用するうえ、母乳だけでは量が足りないためだ。

ミルクを飲む雄のシャオシャオ。2021年12月20日(写真:公益財団法人東京動物園協会提供)

シャオシャオとレイレイは、2021年6月23日の誕生から2カ月余りの間、人間の赤ちゃん用とペット用のミルクを混ぜた人工乳を飲んでいた(参照:『双子パンダが飲む「混ぜて使う人工乳」意外な中身』)。

だが現在、飲んでいる人工乳は「PANDA MILK-10」(パンダミルク-10)。お腹にやさしいといった理由により、2021年9月中旬から慣らし始め、9月下旬に完全に切り替えた。しばらく哺乳瓶で飲み、2022年3月から前述のようにお皿で飲んでいる。

双子の姉のシャンシャン(香香)も「パンダミルク-10」を飲んだ。シャンシャンは1頭で生まれたので、母乳だけで育った。だが親離れすれば母乳を飲めない。その準備のため2018年10月から「パンダミルク-10」を飲み始め、2018年12月に親離れした。飼育員は、シャンシャンが竹や笹で十分に栄養を取れるようになるにつれ、「パンダミルク-10」の量を減らし、1歳11カ月の2019年5月24日に与えるのをやめた。

「パンダミルク-10」は、森永乳業の関連会社の森乳サンワールドが開発・製造している。前身の「PANDA MILK」(パンダミルク)は、世界初のパンダ専用の人工乳だ。

「パンダミルク」「パンダミルク-10」の開発を担当したのは高津善太さん(2021年3月まで森乳サンワールド社外顧問)。1968年に東京大学理学部生物化学科を卒業して、森永乳業に入社した高津さんは、1987年にパンダミルクの開発に着手した。上野動物園でトントン(童童)が生まれた翌年だ。

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