戦禍で身寄りをなくした36歳彼女の目に映る「今」 サヘル・ローズさん、壊された心は修復できない

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サヘル・ローズさんに、今のウクライナの状況や戦争について思うことを語ってもらいました(撮影:尾形文繁)

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イランが隣国との戦争で困窮した時代に生まれ、幼少期を孤児院で過ごし、8歳で養母・フローラさんとともに来日した、俳優・タレントのサヘル・ローズさん。孤児、いじめ、差別、貧困など、さまざまな苦難を乗り越える過程で出合った「言葉」を散りばめた、最新刊『言葉の花束 困難を乗り切るための“自分育て”』が刊行され、話題に。これまでの壮絶な体験がつづられた本書は、生きづらさを抱える多くの人たちから共感を得ています。
2回にわたるインタビューの前編では、さまざまな困難を乗り越え、のちに人道支援の活動にも力を入れるようになったサヘルさんに、今のウクライナの状況や戦争について思うことを語ってもらいました。

たとえ街が修復しても、心は修復できない

――戦争によって国全体が困窮した時代に生まれ、7歳まで孤児院で過ごしていたというサヘルさん。ロシアからの軍事侵攻によって、多くのウクライナ人女性や子どもたちが祖国を離れ、避難生活を余儀なくされています。そうした状況に、どんなことを思いますか。

この戦争によって、これまで平穏だった日常が壊され、家族が引き裂かれています。特に子どもたちが受けた心の傷は、大人以上に大きく、たとえ戦争が終わっても「よかったね」とは、とても言えない状況だと思います。

これから先、街が修復したとしても、壊されてしまった心はなかなか修復することができません。自分が生き延びてしまったことへの「生きててよかったのかな?」という自問自答は、その後もずっと付いて回ると思います。それこそが、戦争の怖さなのです。

私は4歳の物心つく頃から、養母・フローラに引き取られる7歳まで孤児院で暮らしていました。

当時、最もつらかったのは、私の姿が「誰の瞳にも映らない」ということでした。施設では職員さんたちが入れ替わるため、同じ人とずっと一緒にいることができません。

毎日、同じ大人の顔を見ることができない。相手の瞳に自分の姿が映らないことの寂しさや不安感は、その後も消えることはなく、今でもふっとよみがえることがあります。

そして、もう一つの苦しみは、「なんで私は生まれてきたんだろう?」という思いです。生まれる国も時代も親も選べない。人間って生まれ育った場所で、こんなにも人生が変わっちゃうんだという、やり場のない感情を抱えていました。

7歳のときにフローラと出会い、養子として引き取ってもらえたことは本当に運が良かったし、たくさんの幸せをもらいました。でも、どんなに愛情をもらっても心の傷はなかなか癒えないものです。戦争が人々に与えるダメージや後遺症は、計り知れません。

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