テスラが中国の顧客に「転売禁止」求める事情 EVの相次ぐ値上げに目をつけたブローカー暗躍

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テスラは2022年3月、中国で現地生産するEVの価格を3度にわたって引き上げた(写真はテスラの中国向けウェブサイトより)

アメリカのEV(電気自動車)大手のテスラが、中国の一部の顧客に対して「購入したクルマを転売しない」旨の誓約を求めていることが明らかになった。一度に、または複数回に分けて多数のテスラ車を購入し、他者に転売して利ザヤを稼いでいるブローカーを排除するためだ。

インターネット上に出回った「誓約書」の画像などによれば、テスラは対象の顧客に対して「納車後1年間はいかなる第三者への名義変更も、車両の引き渡しも行わない」よう要求。さらに、誓約に違反した場合は違約金として車両購入価格の20%を支払うことや、それに応じなければ(テスラ車専用の)急速充電サービスを含むアフターサービスの提供を制限することに同意を求めている。

財新記者の照会に対し、テスラは事実関係を認めたうえで「一般の顧客には影響しない」とコメントした。事情に詳しい関係者によれば、誓約書に署名を求められるのはクルマを5台以上購入する顧客に限られ、その目的はテスラ独自の「直売モデル」を守ることにあるという。

納車後に転売するだけで濡れ手で粟

テスラは直営の店舗とウェブサイトを通じてEVを顧客に販売し、中間流通を省いている。クルマの市場価格が安定している時期なら、テスラ車を買い占めて転売してもブローカーにはうまみがない。

ところが2022年に入り、テスラは電池の原材料不足などを理由にEVの販売価格を連続して引き上げた。このことが、ブローカーに付け入る隙を与えた。「テスラ車を早めに買ってため込んでおき、次の値上げの後で転売すれば大きな利ザヤが稼げる」と、彼らは計算したのだ。

具体例を挙げると、テスラは3月10日から3月17日にかけて立て続けに3度の値上げを実施した。その結果、「モデル 3」のパフォーマンス・グレードの販売価格は合計2万8000元 (約52万4266円)、「モデル Y」のロングレンジ・グレードは同じく2万8000元、パフォーマンス・グレードは3万元 (約56万1714円)それぞれ上昇した。

だが、値上げの発表前に契約を結んだ顧客は以前の価格のまま購入できる。つまり、ブローカーは値上げ前に注文したクルマを納車後に転売するだけで、濡れ手で粟の利ザヤが稼げるのである。

本記事は「財新」の提供記事です

財新記者の取材に応じた関係者によれば、テスラの直営店の一部では、3月の値上げを発表する前の受注の1~3割がブローカーの疑いがある顧客からのものだった。テスラはその実態に気がつき、転売行為の広がり抑えるために今回の措置に踏み切ったという。

(財新記者:安麗敏)
※原文の配信は3月21日

財新 Biz&Tech

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