京都発!知的興奮に満ちた立命館大学のグローバル人材育成
「錯視デザインは知覚心理学の
研究成果をわかりやすく伝えるものです」

北岡明佳教授
知覚心理学を講じる北岡明佳教授の研究室の壁には、規則正しく図形が並んだ色鮮やかなプリントが所狭しと貼られている。その1点1点の造形は、眼を引き付けて離さない。ところが、視線を移したり、瞬きしたりすると、図形がゆがんだり、動き出したり、様相が変わる。「錯視、つまり視覚がだまされているんです」と、北岡教授は明かす。この錯視は、知覚心理学の主要なテーマのひとつである。「心理学は19世紀後半に成立したとされますが、錯視研究はそれ以前からです」。実に150年以上もの長きにわたって研究されてきた学術分野なのだ。
人は、眼から得られた情報を脳に伝え、脳内でその情報を分析して、色や形を認識する。北岡教授の研究室の壁に貼られた静止画が動いて見えるといったように、描かれたものが描かれた通りには見えない錯視は、脳の情報分析に関する特性が現れたことによって起こる。そのように北岡教授は説明してくれた。
「蛇の回転」と名付けられた作品は、瞬きしたり視線を動かすと回転して見える。「これは色の明るさを変えて繰り返し描くと、錯視量が増大するという視覚の作用によるものです」と語る北岡教授に、赤いY字型の模様の意味を尋ねると、「ヘビの舌ですよ。ただの図形だと無味乾燥だけど、ヘビになぞらえると親しみがわくじゃないですか」。

「蛇の回転」
ハートが描かれた紙を左右に振ると、ハートが揺れ動いて見える「踊るハート達」も、踊る図形はハートでなくてよいのかもしれない。踊るように見えるのは、色のコントラストの大きい部分は速く知覚できる一方、コントラストが小さい部分の近くは遅くなるという情報処理のスピードの違いからだという。

「踊るハート達」
それにしても、北岡教授にかかると、錯視の世界がアートに変わるかのようだ。実際に作品集が出版されたり、企業広告に活用されたり、米国のミュージシャン、レディー・ガガのアルバム「アートポップ」のCDジャケットに使われたりもしている。ウェブサイトへのアクセスも多く、海外からファンレターならぬファンメールが届くことも少なくない。「私は決してアーティストじゃないんですよ。錯視デザインは、あくまでも知覚心理学の研究成果を分かりやすく伝えるためのものなんです」と、北岡教授は語る。
北岡教授は「錯視のメカニズムの解明は、視覚の科学的研究に他なりません。ここ20年、コンピュータの普及によって、錯視研究は飛躍的な進歩を遂げています。本学でも16年度、大阪いばらきキャンパスに総合心理学部を設置する構想があります。この機にさらに研究を進めていきたいですね」と、展望を語る。錯視という伝統的な学究分野に、新たな風が吹いている。