新たな極右大統領候補を生み出したフランスの病 エリートを嫌い、移民を嫌うゼムールとは何者か

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2021年12月、演説を終えたあと支持者にアピールするエリック・ゼムール氏(写真・2021 Bloomberg Finance LP)

フランスでは2022年4月、大統領選を迎える。マクロン政権が継続するのか、それとも新しい大統領が生まれるのか、もっぱらフランスではこの話題で賑わっている。EUの顔であったアンゲラ・メルケルの後、ドイツではオーラフ・ショルツが首相になったが、まだEUの顔といえるほどの存在ではない。当然ながらEUの大国であるフランスの大統領こそ、EUの顔となる人物であるのだが、そのマクロンの人気はさっぱりだ。

その間隙を縫うかのように、2021年8月ごろから、ジャーナリストのエリック・ゼムールが頭角を現した。その人気は2022年になって下降気味だが、ほかの候補との違いは、彼がまったく政治経験のないジャーナリストであるということだ。

エリートたちを強烈に批判

2014年にベストセラーになった『フランスの自殺』という書物こそ、彼が大統領選に出馬する決意を決めた書物であった。その中で、彼はこれまでフランスを形作ってきたエリートたちへの批判をぶちまける。

彼が批判するのは、30年ほど前の1989年のフランス革命200年の式典である。この式典こそフランスを狂わせたものであると。それは、このときフランス革命を祝うことで、フランス人が自国の歴史を忘れ、世界史、すなわち世界のために貢献する人類愛のフランスを高らかに謳ったからだというのだ。フランス革命式典とともに、フランスは、フランスの民衆を忘れ、フランスが世界にもたらした革命、グローバル化と人権による世界の平和に酔いしれたのだという。

フランス史は、フランスの民衆史ではなく世界史に変わった。それとともに、フランスという偉大な民衆国家は世界史になり、フランスの民衆を失ったというのだ。そしてフランスはその後欧州連合(EU)の一員となり、ますますその偉大さを失いつづけているという。

彼はこう述べる。「わが政治エリートは偉大なるヨーロッパ計画という名のもとに、フランスの独立と主権を放棄した。わが経済的エリートは、国際化の必要性とグローバリゼーションという名のもとに、フランスの利益を裏切った」Éric Zemmours,Le Suicide Français,Albin Michel,2014,518ページ)と。

フランスは、フランスのことを忘れヨーロッパに邁進したことで、その競争力を失い、フランスの民衆を捨ててしまったというのである。その原因をつくった人々こそ、グローバル化の旗振りを行ったフランスのエリートたちで、それは右派も左派も問わないというのだ。まさにフランスを「自殺」に追い込んだのは、フランスの左右のエリートたちだということだ。

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