卵泥棒と蔑まれた恐竜は決死で子を守る親だった オビラプトルの化石からわかった「親の愛」の真実

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生き物たちはみな、最期のその時まで命を燃やして生きている──。
土の中から地上に出たものの羽化できなかったセミ、南極のブリザードのなか決死の想いで子に与える餌を求め歩くコウテイペンギンなど、生き物たちの奮闘と哀切を描いた『生き物の死にざま』の姉妹版『文庫 生き物の死にざま はかない命の物語』。同書からオビラプトルの章を抜粋してお届けする。

「卵泥棒」と名付けられた恐竜

オビラプトルという名の恐竜がいる。

オビラプトルは、ラテン語で「卵泥棒」という意味である。 オビラプトルの化石が最初に発見されたのは、1923年のことである。

オビラプトルとはこんな姿の恐竜だ(イラスト: ビリケン/PIXTA)

その化石は、モンゴルのゴビ砂漠で発見された。この地域は、角竜(つのりゅう)のプロトケラトプスの卵の化石が多く発見されることで知られている。オビラプトルの化石は、卵が並べられた巣の中で発見された。

そのため、オビラプトルは、プロトケラトプスの卵をエサにするために巣に近づいてきたまま化石になったと考えられたのである。

しかも、オビラプトルの口は、オウムのくちばしのような形をしていて硬い物を嚙(か)み砕きやすいようになっており、卵を割って食べると考えられていたのである。

恐竜の中には、現在の鳥のように、卵を抱いて子育てをしていたものがいたとされる。卵は、恐竜の親にとっては大切な存在である。その大切な卵を親の目を盗んで食べてしまうとは、なんという恐竜だろう。

オビラプトルは、そんな軽蔑(けいべつ)とともに、「卵泥棒」と名づけられたのだ。 しかし、である。

じつは、この命名が、とんでもない誤解だったことが後になって判明した。

卵の化石の中に、オビラプトルの胎児が入っていたのである。

つまり、発見された卵は、オビラプトル自身のものだったのだ。オビラプトルは、卵泥棒ではなく、その巣の主であり、鳥のように卵を温めていた親だったのである。

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