川村元気「後に何も残らない物語は作りたくない」 「一生懸命、自分の不寛容さと戦うのが人間の理性」

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作家・映画プロデューサーの川村元気氏(撮影:梅谷秀司)
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作家・川村元気の最新刊『神曲』の創作に迫るインタビューの第3部(全3部)。今回は、現代における人間の欲求や、それに応えるエンターテインメントや芸術のあり方について聞く。本能に訴求するようなコンテンツやサービスが増えている現代、川村が残したいものは何か。
第1部:川村元気「だから僕は神様への信仰を物語にした」
第2部:川村元気「作り手さえビックリする物語が面白い」

人間の想像力を信じる

――ソーシャルゲーム以降、本能に刺していくコンテンツやモノが増えていると思います。芸術や文学はそういうところに抗う一面もあると思いますし「人間の想像力を信じる」というお話にもつながります。一方で川村さんは結果を出さなければいけないという仕事もたくさん手がけられています。その違いは何なのでしょうか?

今思いついたんですけど、さっき言ったABCDのDを切ってEを詰め、Dの喪失を想像させる(第2部:川村元気「作り手さえビックリする物語が面白い」で言及)のが僕の作るエンターテインメントだとすると、ソーシャルゲームのすごさって、ABCDがあって、絶えずその後にはEがある、Fがあるって、次、その次と引っ張っていくんですよね。それはそれで人間の想像力を使っているんです。その想像力を最もうまく使っているのが、ギャンブルだと思います。だから抜けられないんです。諦めそうな瞬間にもっと良くなるはずだって想像力を絶妙にあおられるわけじゃないですか。すごく人間の本能を利用していると思います。

同様に、インターネットというメディア自体がクリック数を稼がなきゃいけないという特性がある以上そうなるのは避けられないと思います。ただ、そのクリックした先、読み終わった後に、何も残らない、何も覚えていないというのではいけないと思います。メディアとしても、エンターテインメントとしても、最後に何を残したかが大事だと僕は思います。

だから間口をなるべく広げつつも、最後はとんでもないところに連れていき、その人の中に何かが残るものを作りたいと、いつも思っています。

川村元気さんが『神曲』(2021年)以前に世に送り出してきた小説。左から『世界から猫が消えたなら』(2012年)、『億男』(2014年)『四月になれば彼女は』(2016年)、『百花』(2019年)

――川村さんはエンタメ的な即効性のあるキャッチーさと、本質的な物語を両立させていると感じています。特に、エンタメとアート、理系と文系、科学と非科学、西洋と東洋など、難しいテーマも二項対立にしてしまうことで興味あるものにしたり、その中間で揺れている人物の視点で見やすくしたりとか。

二項対立の間にほとんどの人がいて、二項対立の間にこそ面白さがあると思っています。僕は聖書をベースに育ったけど、神道にも興味があって惹かれているということが面白い味になっているとは思います。キリスト教や神道をそのままやっても面白くないという時に、キリスト教ベースの人間が神道に憧れていたらと考えると急に物語になるし、そのねじれこそが物語だと思うのです。例えば、冬と夏どっちが好き?というのも二項対立だけど、それはあまり面白くなくて、「夏なのに寒い」と書くと急に物語になるんです。2つのものがねじれてつながる瞬間を狙っている意識はあります。

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