「本当は必要のない仕事」が多すぎる歴史的理由 「クソどうでもいい仕事」はこうして生まれる

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被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態である「ブルシット・ジョブ」(写真:kazuma seki/iStock)
どうでもいい仕事が蔓延するメカニズムを解明してベストセラーとなった『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』(デヴィッド・グレーバー著)。生産性が叫ばれる時代にも、意味のない仕事が生まれてしまうのには、根深い理由があるようです。翻訳者のひとりである酒井隆史氏が、解説を加えながら日本人読者向けに上梓した解説本『ブルシット・ジョブの謎 クソそうでもいい仕事はなぜ増えるか』を一部抜粋・再編集してお届けします。

 

「働きすぎ」はなぜ生まれる?

グレーバーのテキストのなかに「不要な仕事」という問題設定は、かれの知的キャリアのその初期からすでにあらわれていました。現代世界は「不要な仕事」によって危険なくらい肥大化し、それによって人々は働きすぎで押しつぶされている、といった問題設定です。

これからみていくように、資本主義市場がムダな仕事をつくるわけがないという信憑や、あるいは仕事はたくさんあるにこしたことはないという発想は、政治的立場を問わずおおよそ自明の前提です(「雇用創出イデオロギー」につながっていく考えです)から、こうした発想自体、いくぶんかはユニークです。おそらくここには、エコロジーやフェミニズム、アナキズムなどの影響があるようにおもいます。

そのような初発の問題設定は、ある程度まとまったかたちでは、著作『アナーキスト人類学のための断章』であらわれます。グレーバーはそこで、まず1920年代に勢いのあったアメリカの労働運動IWW(世界産業労働者組合。ウォブリーズとも呼ばれます)が、もともと1920年代に推進しようとした、一日4時間、週4日労働の要求をあげて、これは実現可能なのではないか、というふうに問いを立てています。

アメリカにおける労働時間のかなりの部分が、実質的にはアメリカ人の働きすぎという事実が生んでいる諸問題の尻ぬぐいのためにのみ必要とされていることは、くり返し証明されてきた。夜間のピザ配達人、犬の洗濯師、夜間仕事で忙しいビジネスウーマンの子どもたちの子守をする女性たちの子どもたちのために夜間保育所を運営する女性たち。
またいうまでもなく、働きすぎやけがや自殺未遂や離婚や暴力沙汰による精神的/身体的傷を癒すために、また子どもたちをなだめるための薬品をつくるために、専門家たちが投入するはてしのない時間……。

だがいったいどの仕事が真に必要な職種なのか?
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