「大学進学の壁」あまりにも高い里子たちの苦悩 日本には「学ぶ権利」を剥奪された子どもがいる

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里子の子どもたちの進学をはばむ「18歳のハードル」とは? 画像はイメージです(写真:Fast&Slow/PIXTA)
保護者がいない、保護者に養護させることが適当ではないなどの理由から「社会的養護」を要する子どもたちが全国で約4万5000人いる。高校への進学率は昨今では一般(※高校を卒業した子ども全体での平均値)に近い水準だが、大学・短大などへの進学となると半分以下(全高卒者52.7%、児童養護施設17.8%、里親委託30.3%)。
そんな「少数枠」に入ろうと、今年大学受験に挑む、里親委託児の現役高校生がいる。どうすれば彼女は進学を目指せるのか? 本人や関係者に話を聞いた。

親がいなかったり、親から虐待を受けるなどの理由から、家庭では十分な養育が受けられない子どもたちがいる。こうした子どもたちを国と地方自治体の公的責任のもと、適切な養育環境などを用意して社会全体で育てていくことを「社会的養護」という。

最新の厚生労働省の調べでは、この社会的養護を要する0歳から18歳までの子どもの総数は全国で約4万5000人とされている。そのうち2020年度の児童養護施設児と里親委託児、それぞれの高校や専門学校等への進学率は一般と比較すると、数はやや落ちるものの、その多くが進学していることがわかる。

ところが大学や短期大学などについては、進学率自体、極端に低くなる。一般の進学率が52.7%に対し、児童養護施設では、17.8%、里親委託でも30.3%にとどまっている。

今年3月の児童養護施設や里親家庭で育った経験のある人についての国内初の調査報告書では、最終学歴を「4年制大学」とした者は、全体のわずか2%という衝撃的な数字も発表された。中卒や高卒(通信制や定時制を含む)者が全体の約80%を占める結果ともなっている。

小学生低学年で保護された山岡さん

山岡絵美さん(仮名、18歳)は、そんな数少ない4年生大学の「少数進学枠」に入ろうと、小学生低学年の時から勉強に励んでいる。

彼女の成育環境もまた大変厳しいものだった。小学校入学以前に母親が病死。その後数年間は父子家庭で育つ。病気がちな父親との暮らしは過酷で、それを見かねたまわりの大人たちが児童相談所(以下、児相)に報告。

当時、小学校低学年だった彼女は無事保護され、一時的に児童保護所へ預けられた。保護された当時は学校が夏休みのため給食も食べられず、家の食料は底をつき、父子ともに数日間水だけで餓えをしのぐような状態だったという。

絵美さんは約4カ月の一時保護を経て、現在の里親である鈴木隆宏さん、洋子さん(共に仮名)夫妻の元に運よく引き取られた。“運よく”と言うのは、社会的養護を要する子どもたちの2割程度しか、里親のもとで養育されない状況にあるからだ。大多数は、集団生活を送る児童養護施設に送られる。

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