アフガン混乱に失望「欧州の米国離れ」が始まった 独自の防衛力構築へ「欧州軍」創設の議論再燃

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タリバンが政権を掌握したアフガニスタン。アメリカ軍撤退は大混乱を伴った(写真:Abaca/アフロ)

欧州は今、フランスが従来主張してきたアメリカ依存の安全保障体制から脱却し、欧州軍を創設する本格的な議論が再燃している。

9月2日にスロベニアで開催されたEU外相の非公式会合に参加したボレル外交安全保障上級代表(EU外相)は「歴史を進める出来事が時折起こる。アフガニスタンはその1つだと考える」と述べ、EU加盟国が11月までに計画を策定する方針を示した。具体的にはNATO(北大西洋条約機構)とは別に、即時出動できる5000人の初動部隊を想定している。

同盟国との十分な調整をしていなかったアメリカ

きっかけは、アメリカ軍のアフガニスタンからの完全撤退に対する欧州諸国の失望だ。今年1月に誕生したアメリカのバイデン政権に対して、欧州諸国は大きな期待を寄せていた。アメリカ第一主義のトランプ前大統領に対しては、ドイツ、フランス、イギリスなどが批判的で、フランスの元欧州問題担当相のナタリー・ロワゾー氏は「トランプが去るまで待つべきだと考え、そうすれば元の欧米関係に戻れるだろうと考えた」と述べていた。

ところが、今回のアメリカ軍のアフガニスタンからの完全撤退によって、現地は大混乱。欧州諸国は自国民や出国を希望するアフガン人協力者とその家族などを、全員避難させるには至っていない。「アメリカは戻ってきた」とのメッセージで今年登場したバイデン氏の言葉が事実でなかったと受け止められ、アメリカ依存のリスクが公然と語られている。

では、混乱の原因は何か。イギリスのBBCは「とくに撤退時のアメリカ軍やNATO軍を含む連合同盟軍36カ国の軍隊の任務において、アメリカが同盟国との調整を十分に行わなかったことが表面化し、全体の4分の3を占める非アメリカ人の避難で国際的な混乱を招いた」と指摘した。

つまり、アメリカがNATOにも欧州諸国にも十分な情報共有を行っておらず、個別協議もなかったことだ。結果的に最初から最後まで意思決定の蚊帳の外に置かれたことが、欧州でアメリカ依存脱却、NATOのあり方の根本的見直しに向けた動きの引き金になったといえる。

次ページこれまではNATOを構築してきたが…
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