「愚かな失敗」に終わらせないための組織風土 科学者と経営者の「輝かしい失敗」から学ぶ

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失敗は次の成功につながる学びの宝庫。失敗を成功に変えるために必要なこととは(写真:Mills/PIXTA)
今の社会は、変化のスピードが速く、ますます複雑になってきている。経済や政治でも大規模な変革が続き、過去の知恵や経験に基づく推論は通用しない。予想もしない出来事が次々と起こってくる。今までのように成功体験ばかりを賞賛し、失敗を隠そうとする風潮は不合理だ。失敗は次の成功につながる学びの宝庫である。
このたび、オランダのビジネススクールで失敗研究に取り組んでいるポール・ルイ・イスケ教授の著作『失敗の殿堂:経営における「輝かしい失敗」の研究』が邦訳出版された。
本稿では、野中郁次郎氏や鈴木敏文との著作をはじめ、経済・経営分野を中心に、小売りからメーカーまで、企業の成功事例を数多く取材してきたジャーナリストの勝見明氏が、同書の理論をもとに日本の「輝かしい失敗」を読み解く。

コロナ敗戦を「失敗の型」から考える

新型コロナウイルス感染症への政府の対策を「失敗」と断じ、「敗戦」とする呼び方を目にするようになった。

『失敗の殿堂:経営における「輝かしい失敗」の研究』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

「ワクチンもない。クスリもない。タケヤリで戦えというのか。このままじゃ、政治に殺される。」

竹やりを構えた戦時中の少女たちの写真と中央の真っ赤なコロナウイルス。5月11日、朝日新聞など、全国紙3紙の朝刊に、両面見開きで掲載された宝島社の企業広告は、大きな反響を呼んだ。

なぜ、失敗が繰り返されるのか。そう思っているとき、書店でタイトルが目に飛び込み、手に取ったのが『失敗の殿堂:経営における「輝ける失敗」の研究』だ。著者のポール・ルイ・イスケ氏はオランダのマーストリヒト大学ビジネス・経済学部教授。

驚いたことに、同学内には「輝かしい失敗研究所」なる機関が実在し、そのCFO(最高失敗責任者)を務めるのがイスケ氏だった。冗談っぽい肩書に見えるが、この肩書にこそ、失敗を恥ずべきものではなく、ポジティブに、ひたすら前向きに捉えようとする本人たちの意思が表れているようだ。

輝かしい失敗(Brilliant Failures、略してBriFa)とは、「価値を生み出そうとしたけれど、本来意図した結果が出せなかった試み」であり、「そこから学んだ教訓や学習経験」により、「最終的に何らかの価値を生み出す失敗」のことだ。「失敗は成功のもと」の格言でいえば、「成功のもと」になる失敗ということだろう。

オランダはEU内で「イノベーションの国」として知られる。どうすれば、失敗をイノベーションに活かせるのか。

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