イトマン事件、30年前に起きた戦後最大事件の闇 魑魅魍魎が跋扈、いまだに残された未解明の謎

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大阪地検は初公判の冒頭陳述で「戦後最大の経済事件」と位置付けた。動いた金額の大きさ、登場人物や手口の多彩さに加え、絶頂期の日本経済を代表する金融資本の本丸にアングラ勢力があと一歩まで迫った異様さを評したとみられる。

しかし捜査が事件の全貌を明らかにしたわけではない。多くの未解明な点が残っている。中でも最大の謎は、河村氏の「犯行動機」であろう。

さまざまな人脈や企業が重層的に絡み、魑魅魍魎が跋扈する複雑怪奇な事件だが、イトマン事件を煎じ詰めれば、河村氏の乱脈経営の物語ということになる。社長のいすにしがみつくためになりふり構わず立ち回った結果、罪に問われたわけだが、それだけでは説明がつかない疑問が残る。

エリートを押しのけ、メガバンク常務へ

河村氏は公判を通じて「経営判断を誤っただけ。会社に損害を与える意思はなかった」と主張したが、最高裁第三小法廷は「取引の動機は会社の利益よりも自己の利益だった」として、同社に損害を与える認識があったと判断した。

戦前の高等商業学校卒の河村氏は血のにじむ努力で、並みいる有名大卒のエリートを押しのけてメガガバンクの常務にまで上り詰めた。住友銀行の「天皇」と呼ばれた磯田一郎氏の指示で経営不振のイトマンに転出し、一度は再建を果たした。

バブル期に入り、居酒屋チェーンとの紛争や石油転売事業で抱えた巨額の負債などで会社は再び危機に陥った。すると、意見を言う役員や社員を社外に出し、メディアなど外部の批判は金で解決しようとした。伊藤氏らから10億円の現金を受け取り、愛人経営の料亭に社費で入り浸るなど経営者倫理にもとる行為に手を染めた。

こうした公私混同が社長交代によって発覚することを恐れ、オーナー経営者を目指し、借金をして大量の自社株を取得した。会社の資金を使った商法違反の自社株買いも行った。常務にとりたてた伊藤氏の事業に巨額の資金を貸し付け、一部を企画料などの名目でキックバックさせたのは事実上の粉飾決算といえた。

ではなぜ許認可も下りていないゴルフ場に100億円単位で資金を出し、買い手のあてもなく700億円近い絵画を買ったのか。

イトマンは、粉飾しても経常利益が100億円程度に過ぎない会社だ。バブル崩壊がなくてもいずれ行き詰まることはプロの経営者でなくても容易に想像がつく。経営破綻すれば、買い占めた自社株も紙くずになる。「会社に損害を与える意思はなかった」という弁明は否定されて当然だが、一方で「自己利益」になろうはずもない。にもかかわらず泥沼に突っ込んでいった理由が不明なのだ。この最大の謎に対して、検察の立証と裁判所の認定には隔靴搔痒の観が否めない。

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