ベンツ「2030年完全EV化宣言」日本への影響は? もう「綺麗ごと」では済まされない存亡の機

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メルセデス・ベンツのEVモデルである「EQ」シリーズと、ダイムラーAGおよびメルセデス・ベンツのオラ・ケレニウスCEO(写真:Daimler)
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もう、綺麗ごとでは済まされない。メルセデス・ベンツが「2030年完全EV化」の方針を発表したことよって、日本では“今後の身の振り方”に悩む人が一気に増えそうだ。

なぜならば、これは“大いなるゲームチェンジャー”だからだ。 

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ドイツのダイムラーは2021年7月22日、傘下のメルセデス・ベンツについて、2025年以降に発売する新型車はEV(電気自動車)のみとし、2020年代末には市場動向を見据えたうえで新車販売する全車のEV化に向けた準備を進めるとした。

これに伴い、2022年から2030年にかけて40ビリオンユーロ(=5兆2000億円:1ユーロ130円換算)もの研究開発費をEVに投じることを明らかにした。

ダイムラー及びメルセデス・ベンツのオラ・ケレニウスCEOは「EVシフトは速度を増している。特に、我々が属しているラグジュアリー分野で顕著だ」として大規模な事業転換を決断したと説明する。

そして、「new era(次世代)での成功を確信している」と強い意志を示した。

デファクトを続けるベンチマーク

言わずもがな、19世紀末の自動車産業創世記から2020年代の現代まで、メルセデス・ベンツは世界の自動車産業界をリードしてきたメーカーだ。

例えば、乗用車用ディーゼルエンジン、走行時の車体安定制御、衝突被害低減のための安全装置などをいち早く開発し、量産。高級車から大衆車へ、また日本を含めた世界へと広がる様々なデファクトスタンダードとなる技術を世に送り出してきた。

最近では、CASE(ケース:コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)という言葉をよく耳にするが、これはメルセデス・ベンツが2010年代半ばにマーケティング戦略として打ち出したもの。

2017年の東京モーターショーでCASEを説明するダイムラーAG取締役のブリッタ・シーガー氏(写真:Daimler)

今ではメディアなどで一般名詞にように扱われ、トヨタやホンダなど日本メーカーも近年、自社の決算や中期経営計画の中でCASEという表現を使うことが当たり前になっている。

メルセデス・ベンツは、高級車という枠組みを超えた、世界自動車産業におけるベンチマークなのだ。

筆者は1990年代に日本を含めて世界的に流行したブラバス、ロリンザー、カールソンといったメルセデス・ベンツのチューニングメーカーを取材し、それをきっかけにドイツ各地を頻繁に訪れている。

そして、メルセデス・ベンツの本拠地であるドイツ中部のシュトゥットガルトを中心に、ダイムラー本社とその周辺産業の動向を多面的に見るようになった。

そうしたドイツ現地での経験を下地に世界各地で取材を行いメルセデス・ベンツ、そしてダイムラーという企業に対する理解が深まっていった中で強く感じているのが、“政治力”である。

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