牧師の僕が閉鎖病棟に入って気がついた「真実」

出会った人々は「社会の枠」から外れているだけ

──主治医との対話には鬼気迫るものがありました。

日々の出来事と感情の動きを詳細に記し、数日後見直して自分なりの分析を書き足す作業、自分を深く見つめ直していく作業を課されました。“ありのまま”とはどういうことか。無意識にプライドの塊と化してる自分に、主治医は執拗に問い続ける。

僕は声を荒らげ、いすを蹴り上げたこともあった。気づいたのは、自身の弱さから目を背け、すべて他人のせいにしてきた自分。僕はずっと被害者モードで生きてきた。副園長を「あの人が追い詰めた、パワハラだ」と責めた。相手にも言い分があることを、僕は考えてこなかった。

入院時、自分の障害を認めなかったのも、牧師として病んだ他者と向き合う自分はまともである、としがみついていたから。自分は健常者だというプライド。まともである・ないを線引きし差別していたのは、ほかならぬ自分でした。

「今から死ぬ」という電話に

──6年経った今、牧師としてのあり方は何か変わりましたか?

自分の弱さに気づいたことで、聖書の「むしろ弱さを誇ろう」という箇所を受け入れられるようになった。焦る必要もなきゃ隠す必要もない。訪れた人に対し「あなたの苦しみがわかる」みたいなフリはいっさい要らんなって思う。

『牧師、閉鎖病棟に入る。』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトへジャンプします)

今の教会へ来て、1本の電話を受けました。「今から死ぬ。自分が生きていたことを誰かに覚えていてほしかった」と。受話器を持ったまま30分、お互い沈黙しました。僕も切らない、向こうも切らない。ようやく何か言葉が出て、「そっか」と返した。道理の通った対話でも僕が相手を納得させるでもない。30分だんまりでも電話でつながっていたことが大事だった。いつか話したくなる日が来るかもしれないし、別の機会・場所で癒やしを得られるかもしれない。

リストカットはなぜダメか、再び問われたら、やはり一緒に沈黙するでしょう。とりあえずお茶しようか。何でかねぇ、どう思う? 何でもいいから言うてくれ。俺もようわからんわ。そんな話をするでしょうね。

ライフの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 日本野球の今そこにある危機
  • 非学歴エリートの熱血キャリア相談
  • 新型コロナ、長期戦の混沌
  • 自衛隊員も学ぶ!メンタルチューニング
トレンドライブラリーAD
人気の動画
ANAとJAL、国内線で競り合う復活レースの熾烈
ANAとJAL、国内線で競り合う復活レースの熾烈
富裕層、世代でまったく異なる「お金の使い方」
富裕層、世代でまったく異なる「お金の使い方」
サイゼリヤが「深夜営業廃止」を決断した裏側
サイゼリヤが「深夜営業廃止」を決断した裏側
JR東「ダイヤ改正&オフピーク」で狙うコロナ後
JR東「ダイヤ改正&オフピーク」で狙うコロナ後
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
メタバース革命が始まる<br>全解明 暗号資産&NFT

不正流出事件から4年。復活不可能に見えたビットコイン相場は米国主導で活況を取り戻しました。暗号資産を使ったNFTの購入、そしてNFT取引が広がるメタバースにもビジネスの機会が広がっています。日本は暗号資産とどう向き合うのでしょうか。

東洋経済education×ICT