牧師の僕が閉鎖病棟に入って気がついた「真実」

出会った人々は「社会の枠」から外れているだけ

──「夕日がきれいってどういうこと?」と問われたことも。

沈んだ気分で窓の夕日を眺め、「きれいだな」とつぶやいたら、キョトンとされた。彼らは決して共感性の低い障害じゃない。でもそのときだけキョトンとした。どう説明していいかわからず、「いつかわかるよ」としか言えなかった。彼らの境遇はさまざまだけど、共通してるのは親との縁の薄さでした。路肩の花でも夕焼けでも広告でも何でもいい、親しい誰かと体験を共有し「そうか、これは『きれい』なんだ」と学んでいく機会がなかったんだと思います。

カラオケで歌うのが英語の歌ばかりなので、わけを聞いたら「意味がわからない。どうせわからないなら英語の歌のほうがいい」と。愛だ恋だ仲間だ絆だ、言葉はわかる。でもノイズでしかない。人の喜怒哀楽の理由がいちいちわからない。孤独とは違う、孤立ですよね。すごく残酷なことです。

彼らは一日中、それこそトイレにまで僕についてきた。患者として医師と話す関係性とは別の、1人の人間として関わりたい、という思いがあったのかもしれない。

社会の「まとも」さの尺度から外れているだけ

──仏典を読みふける沼田さんを見て、彼らも小5用ドリルを取り出したり、1ページ10分かけて本と格闘したりしてましたね。

少年たちと過ごして、環境がとても大事だと思った。僕が本を読む姿がかっこいいと、マネしたんでしょう。彼らなりに一生懸命勉強しようとした。ただ、病棟では学ぶ環境が乏しく、徐々に気力を失っていった。彼らはモンスターでも異常者でもなく、ほんの少し、社会とのかみ合いがうまくいかなかっただけの少年たちでした。

──彼らとの出会いでご自身も目が開かれ、変えられていった。

手足を車いすに拘束された青年がいました。当初は普通に歩き話したけど、強い鎮静薬の処方が続き意思疎通が不能になったそう。その彼が声を出しうるさいと苦情が出て、テレビのある食堂に運び込まれたことがあった。睡眠剤を打たれ、恍惚(こうこつ)とし意識を失っていく姿を見ながら、ふと磔(はりつけ)のイエス・キリスト像が浮かびました。ここにいる人々は、社会の「まとも」さの尺度から外れてしまい隔離されている。まともな社会のための、スケープゴートじゃないかと。

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