ビジネスの日常に潜む「無意識の偏見」の正体

「価値ある仕事をするために」何を打破すべきか

組織における多様性の確保やジェンダーギャップ解消は、多くのビジネスパーソンが関心を寄せているテーマだ。一人ひとりがそれぞれに合ったやり方で生き生きと働き、イノベーションを起こすうえで、本当に必要なことはいったい何なのか。アーティストであり、東京藝術大学准教授や実業家としての顔も併せ持つスプツニ子!氏と、総合水事業会社の水ingでデジタルを活用した働き方を推進する舘山宜子さんが語り合った。
ヘアメイク/AKANE スタイリスト/SOHEI YOSHIDA(SIGNO)

アウトプットで評価される組織に生まれ変わるべき

スプツニ子!:私は、コロナ前からリモート推進派でした。でも「打ち合わせは、直接会ってしたいんです」と言われることも多くてなかなか理解してもらえなかった。最近ようやく、多くの人がリモートワークのメリットに気づいたように思います。

舘山:働き方改革は前から進められていましたが、リモートワークがぐっと広まったのはやはり最初の緊急事態宣言以降というのが実感ですね。スプツニ子!さんはグローバルにお仕事をされていますが、海外と日本で違いを感じられることはありますか?

スプツニ子! アーティスト、東京藝術大学美術学部デザイン科准教授。英国ロンドン大学インペリアル・カレッジ数学部を卒業後、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)修士課程修了。米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教、東京大学大学院特任准教授を経て2019年より現職。17年に世界経済フォーラムの選ぶ若手リーダー代表「ヤング・グローバル・リーダーズ」、19年にはTEDフェローに選出され、TEDに登壇した。著書に『はみだす力』(宝島社)

スプツニ子!:日本で仕事をして驚いたのは、長時間労働の文化。男性中心の組織、そして家庭における性別役割分担を前提として形成された、あまりよくない慣習ですよね。もう「長く残業している人が偉い」なんて言っている場合じゃないと思いますし、アウトプットで評価される組織が理想です。私がこれまで仕事をしてきたボストンやロンドンの環境では、短時間で効率よく仕事を終わらせる人こそ優秀だという空気がありましたし、ベビーシッターや家事代行などのインフラが整っているのも働きやすさの一因でした。

舘山:日本でも、コロナ禍でほぼ強制的に、多くの人の働き方ががらりと変わりました。その中には古い価値観からの脱却につながるよい変化もあったはずです。これを機に心地よく生産性高く働く社会へ変わっていくための行動を取っていきたいですね。

日常に潜む「アンコンシャスバイアス」の正体

スプツニ子!:私たちの周りには「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」がたくさん潜んでいますよね。例えば、家事や育児は夫も妻もやるのが当然の時代になりましたが、それでもどうしても、女性が主体でやるものだというバイアスがかかってしまっている人もいる。職場においても、よかれと思って言ったことや、気配りしようと思ってやったことが実は偏見を含んでいて、相手のモチベーションを下げたり、チャンスを奪うケースがあります。

舘山 宜子氏 水ing株式会社 デジタルイノベーション推進部所属。Asanaを活用した業務の見える化、業務効率化を推進している

舘山:私も身に覚えがあります。別の職場にいた20代の頃、初めて海外出張に行く話があったときのことです。渡航先の国は当時インフラが整っていなかったため、「女性社員を行かせるべきではない」という議論があったそうです。結局は懸念があることも説明を受けたうえで準備をして出張したんですが、心配してくださったゆえの議論だったと思います。その後も何度か渡航して、大きな経験になりました。でも、最初に機会を逃していたら得られなかった経験かもしれません。このエピソードも、今思えばアンコンシャスバイアスの1つですね。

スプツニ子!:ビジネス界の慣習でいうと、日本では実質的に女性限定で「総合職・一般職」の選択肢があるみたいですよね。これも驚きでした。

舘山:私は、「一般職=女性の仕事」という枠組み自体にずっと違和感があります。男性だって一般職の業務が得意な人もいますし、総合職で生き生き働く女性もたくさんいます。枠を設け、さらに「性別」で区切ることに意味があるんでしょうか。また、一般職の業務は多岐にわたっていて、専門性の高い仕事もあります。それらを丸ごと「事務」とくくってしまうのも、少し乱暴だなと感じます。

スプツニ子!:長らく機能してきたシステムだけに、なかなかその違和感に気づけない人も多いのかもしれないですね。逆に、気づいた人たちが声を上げていくことが大事だと思います。

人が集まれば必ず多様な状態になります。一人ひとりと向き合うと、意外な胸の内が見えることも

舘山:はい。また最近聞いたのは、産休・育休に対する、世代による反応の違いです。

スプツニ子!:世代によって? どんなふうに違うんですか?

舘山:子育て世代は、同僚の男性社員が育休を取得する際に「頑張ってね!」と送り出すんですが、ある世代以上の中には「これを機にゆっくり休んでね」と言う方もいる、という話です。つまり、子育て世代が「夫婦で協力して家事・育児をするための制度」と捉えている産休・育休を、上の世代は文字どおり「休暇」だと思っている傾向があるという……。これも一概に言えないことですが、昔は男性が育休を取得することが今よりずっと困難だったから、その方自身にも周りにも経験がないことに起因するバイアスかなと思います。

スプツニ子!:なるほど。多様性をつくるのは性別や年齢、人種といった属性だけではないですし、自分の中にあるバイアスについて、それぞれが考えてみることが必要かもしれないですね。

舘山:はい。私自身にもアンコンシャスバイアスがあるはず。具体的にどんなものがあるか、一度考えてみたいと思います。

「カオスな時間を生むために」Asanaで効率化

舘山:たくさんのプロジェクトをこなされていて多忙なスプツニ子!さんですが、どうやってワークマネジメントをなさっているんですか?

スプツニ子!:忙しそうとよく言われますが、実はそこまで忙殺されてないと思います(笑)。睡眠時間も自由時間もたっぷり取っているし、私はちゃんと自由時間をつくらないと、仕事のアウトプットやクオリティーが落ちちゃうタイプなんです。仕事の進捗管理やタスク管理は、ITツールを駆使して効率化して、できた時間を新しいアイデア出しやオフの充実のために使っています。

舘山:アートと効率化は真逆の性質があるように感じるのですが、両立しえるのでしょうか?

スプツニ子!:それもよく聞かれるんですが、新しいアイデアが生まれる瞬間って、すごく混沌としているんです。頭の中も、体そのものも右往左往しているし、コロナ前には旅をすることも多かったです。そのカオスな時間を生み出すために、ほかの部分を効率化するという考え方です。

舘山:なるほど。一般的なビジネスパーソンでも、何か新しいことをしたい、面白いアイデアを考えたいと思っても、時間がなくてできないという人は多いですよね。それに、チームで仕事をするうえで、必要な情報や書類のありかを探す時間は無駄だと思うんです。ITツールを使うことでそうした無駄が減り、本質的な仕事に時間を使えるように業務改善を進めています。

スプツニ子!:水ingさんでは、具体的にどんな取り組みをしているんですか?

舘山:Asanaを活用して、組織のワークマネジメントを推進しています。最初は4人でAsanaを活用していましたが、組織で使うことに意味があるツールであり、今年1000人にスケールアップします。それまでは部署やプロジェクトごとに違うツールを使っており、業務の見える化の障壁になっていました。今は全体最適化された業務を目指し、皆が同じツールを使うことで進捗管理やチーム連携をしやすくしています。

仕事に対する考え方も生き方のスタンスも、性別や年齢でくくれませんが、社会のシステムや日常の中にバイアスが潜んでいると感じます

ナレッジを資産にしていく、ワークマネジメント

スプツニ子!:私は少人数のチームでAsanaを使っているので、1000人規模は想像がつきません! スケールアップしていく過程で、使いこなせる人が周囲にノウハウを教えてくれそうですね。

舘山:そうなんです。IT活用が得意な人と苦手な人がいますので、ただツールを導入するだけではダメ。組織が何を目指しているかビジョンを明確にすること、活用のルールを決めて皆が守ること、そしてツールの使い方のサポートが必要です。傾向としては、世代に関係なくチームでいい結果を出そうとしている人ほど、ワークマネジメントの意義をよく理解して活用してくれますね。

スプツニ子!:女性活躍や働きやすさについては、日本にはまだまだ課題がありますが、Asanaのようなツールがワークマネジメントの第一歩をサポートしてくれると思います。

舘山:私は、先ほど話題に出た総合職・一般職など関係なく、一人ひとりが日々やっている業務そのものが「価値」であり、ナレッジだと思うんです。その価値を、Asanaのようなツールを使って具体的なログとして残していく。そうした小さいことの積み重ねが、誰もが活躍できる土壌をつくり、会社全体のパフォーマンス向上にもつながる、理想のワークマネジメントではないでしょうか。

スプツニ子!:今や、ワークマネジメントは当たり前のことですね。現場はもちろん、管理職や経営陣まで一体になって、前に進んでいけたらいいですね。本日はありがとうございました!

舘山:こちらこそ、ありがとうございました。

>Asana Future of Work 2021 - 働き方の未来を考える