「妻の出世で家庭崩壊」40代仮面イクメンの告白 理想の家庭を追い求めた夫婦の驚くべき数年後

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“逆DV”を受けて初めて、自分がモラハラをしていたとわかった……(写真:Graphs/PIXTA)
改正育休法が成立するなど、男性の育児参加への環境が整備されつつある今。しかし、共働き家庭の多くは、見えない問題を抱えている。本稿では、理想の家族像を追い求めた1人の男性のインタビューを紹介。熱心な「イクメン」だった彼の家庭は、なぜ崩壊したか。外からは見えづらい「モラハラ」の実態とはどうなっているのか?
20 年あまりに及び男性の生きづらさを取材してきた著者が、男性社会の変化に迫った書籍『捨てられる男たち』より、「モラハラ」のパートを抜粋、再構成してお届けする。

妻からのDVは「僕がモラハラ夫だったから」

2020年の年末、4年ぶりの取材にオンラインで応じてくれた田中徹さん(仮名、47歳)は青ざめてうなだれ、込み上げる感情を必死にこらえながら、たどたどしい口調で語り始めた。

「じ、実は……DV(ドメスティック・バイオレンス)、なん、です……」

「奥さんに手を上げた、ということですか?」

「いえ……そ、そのー、逆で……。妻から……暴力を、受けてしまいまして……」

この間に何があったのか。尋ねた質問に対し、そう答えているときも、うつむいたまま、いっさい視線を合わせることなく、おびえたような表情を見せているのがパソコン画面からもはっきりとわかった。

コロナ禍でのDV増加が指摘されるかなり前から、妻から夫へのDV事例を、もはや“逆DV”という言葉は通用しないほど数多く取材していた。DV被害者の男性は、加害者にも増して、惨めさや情けなさを内に秘めているケースが多い。慎重に言葉を選ばなくてはと言い聞かせ、質問する。

「どうして、そのようなことになってしまったと思われますか?」

顔面のこわばりが弱まったのを見計らって、尋ねてみた。

「僕がモラハラ夫だった、からです……」

まったく予期せぬ答えだった。動揺を隠し切れた自信はない。

「えっ、モラハラ……つまり、モラルハラスメントということですか?」

「そのとおり、です」

そう言うと、田中さんは突如として顔を上げ、説明を始めた。田中さんはどのようにして、“モラハラ夫”と化してしまったのか。20年近くに及ぶ定点取材から彼の人生の一端をたどることで、その背景や妻との複雑怪奇な心理戦、対人的相互作用について解明してみたい。

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