経営者が鍛えるべき「海外M&A」に必須の戦略眼 日本企業の事例に学ぶ新時代を勝ち抜く3要素

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長引くコロナ禍の状況にあっても日本企業の海外での買収意欲は衰えず(写真:taa/PIXTA)
日本企業の海外M&Aの失敗が後を絶たないのは、買収後の経営について他社から学ぶ機会が限られているからではないか。そう考えた筆者が、日本を代表する製造業企業6社(グローリー、ダイキン工業、DMG森精機、日本板硝子、堀場製作所、村田製作所)の現場の当事者に学んだ知見をまとめた本『海外M&A 新結合の経営戦略』がこのほど刊行された。
本書を基に、海外M&Aを成功に導く3つのポイントを紹介しよう。

コロナ下でも、大型海外買収は続く

長引くコロナ禍の状況にあっても日本企業の海外での買収意欲は衰えていない。2020年の日本企業による海外での買収は557件(MARR調べ)と前年を下回ったが、海外渡航が制限された状況での数字で、依然として買収に積極的な姿勢が見て取れる。

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最近も大型買収が続く。セブン&アイはアメリカのマラソン・ペトロリア社からのコンビニエンスストア併設型ガソリンスタンド部門「スピードウェイ」の買収を完了した(ただ買収発表後、アメリカ連邦取引委員会(FTC)の一部委員が違法で競争上の懸念をもたらす恐れがあると表明している)。

210億ドルを投じたこの買収でアメリカのセブン-イレブン9046店舗に3900店舗を加え、サークルKなど5933店舗を展開するアリマンタシォン・クシュタールに差をつけた。

また、日立製作所はアメリカのデジタルエンジニアリングサービスのグローバルロジック社を96億ドルで買収することを発表した。

日立はオペレーションの現場にあるOT(オペレーショナルテクノロジー)のデータと販売などのビジネスデータを融合するIoTプラットフォ-ム、「ルマーダ」事業に注力している。グローバルロジックが世界各地で展開するデザインスタジオやソフトウェアエンジニアリングセンターを加えることで鉄道やエネルギーなど得意の社会インフラのデジタルトランスフォーメーションを加速させるという。

セブン&アイと日立製作所、両社の今回の買収は、アメリカで実績を積んだ大企業が満を持して実行したディールと言える。買収後の相乗効果創出への自信は、それぞれEBTDA(キャッシュベースでの本業の利益)の13.7倍と37.4倍という買収価額にも表れている。

しかし、株式市場は両社の買収発表に大幅下落で応えた。投資家の間では、日本企業の海外での買収には警戒感が強い。日本郵政の豪トール買収のような目を覆いたくなるような失敗や、キリンなどM&Aで経験を積んだ日本企業でも、買収後に減損を計上し撤退するケースを見せられれば無理もない。

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