日産ゴーン事件「最後の証人」が示した重大見解 東大教授は法廷で「虚偽記載ではない」と述べた

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2018年に逮捕されたカルロス・ゴーン氏(左)、グレッグ・ケリー氏(右)。裁判は続いている。(左、中央の撮影:今祥雄)

「虚偽記載ではないと考えます」――。

東京大学の田中亘教授はそう証言した。4月22日、東京地方裁判所104号法廷でのことだ。

2018年11月に起きたカルロス・ゴーン氏の逮捕劇から2年半余り、ゴーン氏は国外に逃亡したが、同氏とともに逮捕された日産自動車・元代表取締役グレッグ・ケリー被告(64)の裁判が2020年9月から続いている。この日、田中教授は弁護側(ケリー被告側)からの証人として出廷した。

ケリー被告の容疑は金融商品取引法違反で、元CEO(最高経営責任者)のカルロス・ゴーン氏(67)と共謀し、ゴーン氏の役員報酬を実際よりも低く記載した有価証券報告書(有報)を提出したというもの。

2010年度から2017年度のゴーン氏の報酬が合計170億円だったのに、実際の記載は合計79億円だけだったので「虚偽記載」だというのが、検察の起訴事実である。これらに対し、ケリー被告は公判で「未払い報酬を隠すためにゴーンと共謀した事実はない」と一貫して否認している。

虚偽記載ではなく「不記載」

田中教授が見解を示すうえで着目したのは、日産が有報に書いた「支払われた報酬は」という文言だった。

この開示の仕方は、内閣府令が役員報酬1億円以上の役員について個別の報酬開示を義務づけた2010年以前から、日産に限らず多くの上場企業が行ってきた。内閣府令が施行された後も、同じ形式で開示をしていた。

その事業年度の役員への対価はすべて「当期の役員報酬」とみなされる。内閣府令は、既払いか未払いかについて特に定めておらず、「役員報酬は未払い分を含めて開示しなければならない」と解釈するのが法律家の間では常識なのだという。

金融商品取引法は、「虚偽記載」と「不記載」を明確に分けている。投資家の判断に影響を与えるような重要な情報について、虚偽の数字や文章を書くのが虚偽記載、書かないことが不記載である。田中教授の見解は後者だ。

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