テキサス新幹線「日本基準丸飲み」決着の全内幕 日本より厳しい「衝突耐性」どう克服した?

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一方で、テキサス州の地元テレビ局は「投資計画にはテキサス高速鉄道も含まれる」と自信たっぷりに報じた。ブティジェッジ運輸長官が地元テレビのニュース番組に出演し、「テキサスプロジェクトには共和党も民主党も興奮している」と述べた。

「高速鉄道は中国、日本、ヨーロッパで実現しており、我々にできない理由はない。テキサスだけでなく全米で高速鉄道による自由な旅が実現すれば、経済が活性化する」。運輸長官はテキサス高速鉄道に資金を出すと断言したわけではないが、地元のテレビ番組に出演してこのような話をしたことに意味がある。

今年1月初頭、民主党と共和党のどちらが上院を掌握するかがかかったジョージア州の2議席をめぐる連邦上院議員選挙の行方に全米が注目していた頃、テキサス州の高速鉄道関係者たちは、ある安全基準規則のパブリック再考コメントの行方を固唾を呑んで見守っていた。

その安全基準規則とは、テキサスの高速鉄道に関するものだ。アメリカの連邦安全基準ではなく、テキサス高速鉄道に限定して東海道新幹線の安全基準を踏襲するという、アメリカの鉄道史上初めての試みである。

最初に実施されたパブリックコメントの結果は規則内容に修正を与えるものではなかった。それを踏まえたパブリック再考コメントの実施である。

1月4日、再考期間が終了し、テキサスの高速鉄道だけに適用される安全基準の採用が決まった。アメリカで新幹線の信頼性が認められた瞬間である。

アメリカは「事故後の安全」前提

テキサスの高速鉄道は、アメリカの民間会社テキサスセントラルが日本の新幹線方式での導入を目指して進めているプロジェクトだ。JR東海が技術支援を行い、新型新幹線「N700S」をアメリカ仕様に改良し、ダラスとヒューストンという2大都市を90分で結ぶ。

ダラス駅のイメージ。コンセプト画像で最終的な決定段階ではない(画像:Texas Central)

日本側が当初考えていたのは、東海道新幹線のシステムをアメリカの安全基準に対応できるように変更するというものだった。しかし、それは容易なことではなかった。日本とアメリカでは鉄道の安全基準がまったく異なるためだ。

安全の土壌が日米では大きく違う。2019年度を例に取ると、列車同士の衝突事故は日本では1件も起きなかったがアメリカでは114件起きた。脱線事故は日本では9件起きたが、アメリカでは1333件起きた。アメリカでは衝突や脱線事故が日本よりも文字通り桁違いに多い。そのため、アメリカの鉄道安全基準はたくさんの衝突事故や脱線事故が起きることを前提に、事故が起きたときに被害をいかに軽減するかという点が重視される。車両に関して言えば、車両を頑丈に造ることで、客室内の安全性を高めたり脱線を防止することが求められる。

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