日本ではなぜ「学者犬」教育が続けられるのか 弟子が師に抵抗できる「熟慮」の教育が必要

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先生が言うことを生徒が黙って聞く。そんな教育が続くが、先生と生徒がともに議論する教育は広まらないのか(写真・Fast&Slow/PIXTA)

学者犬というものをご存じだろうか。最近ではあまりみかけなくなったが、昔はよくテレビなどに登場したものである。ようするに算数ができるという犬である。これは1つのショーであり、飼い主が「1+1は?」というと、学者犬という犬が「2」と書かれた紙を口にくわえてもってくるのだ。

当然ながら計算できる犬などいない。犬は飼い主の顔をうかがいながら、答えの紙をもってくるのだ。犬の仕事はひたすら飼い主の顔色をうかがうことである。犬は何も考えておらず、ただ主人の言う通り動くのである。

明治の教育方法が続けられる日本

明治以後に始まった日本の教育は、欧米に追いつけというキャッチアップ教育であった。欧米という主人のやることを常にまねること、これが学ぶということの真相であった。西欧に追いつくには、何も考えないでひたすら物まねをすることが効果的である。とりあえず欧米の学問はすべて真実であると仮定し、それをかつての文部省が各学校に流布し、教師がそれを教え込むのである。知識は一方的に教壇から伝えられ、生徒はそれに疑いをはさむことなく、反芻していく。

今でも全国で行われている教育方法は、たいがいこれである。先生の知識は絶対的に正しく、それに疑義をはさむことは、師への冒涜であり、それを行うと厳しい評定、すなわち最低の成績がつく。だから疑いをはさまずひたすら与えられた知識を覚え、先生の前で学者犬よろしく、先生の顔色をうかがいながら正解を選ぶのである。

ところが、先進国といわれている国での教育は、もはやこういう学者犬教育ではない。とりわけ最高学府である大学では、一方的な講義とその内容の暗記を問う試験といったスタイルの教育は次第に姿を消しつつある。そして先生と学生との討論による、真理探究の場となりつつある。先進国になるには、キャッチアップではなく、自らのアイデアを磨くことすなわちcutting edge(先をとがらせること)が重要である。

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