「クイズ」で解決目指した、深刻な社会課題

――最近はクイズ番組のほかにも、バラエティーや情報番組など幅広く出演されていますね。

テレビではクイズプレーヤーという肩書を使わせてもらっていますが、株式会社QuizKnockのCEO兼看板役として、僕らが提唱する「楽しいから始まる学び」という考え方を伝えるという目的が大きいです。クイズ番組ではどうしても、問われたこと以外はあまりしゃべらないので「受け身の情報発信」になってしまう。一方で、街を紹介するロケや無人島で暮らす企画なら、自分から能動的に知の発信ができる。「こんなこと知ってると楽しいですよ」「実はこんなところに学びがあるんですよ」って、アクティブに伝えられるんです。だから、「楽しいから始まる学び」という思いを伝えるべく、クイズ番組以外の仕事も大切にしています。

――そもそもなぜ「楽しいから始まる学び」を伝えようと考えたのでしょうか?

それはQuizKnockを起業した背景が関係しています。僕が大学4年生だった2016年、拡散させることを過度に意識したバイラルメディアやファクトの甘いニュースメディアが乱立していました。

これを受けて、東京大学クイズ研究会のメンバーと「クイズなら、問いかけることで能動的な情報摂取ができるから相性いいんじゃないか?」ということで、クイズで話題を理解するWebメディアQuizKnockを立ち上げたんです。

でも、立ち上げから半年くらいで、クイズというシステムに絞ってしまうことの限界も感じました。それで「楽しさ」にもっと焦点を当て、「楽しいから始まる学び」を目指すことにしたんです。

「知」を伝えるうえで誠実でいたい、と語る伊沢さん

――まさに「楽しさ」を体現しているQuizKnockのYouTubeチャンネルは、今や登録者数が160万人を超えるほどになりました。

それこそ、「楽しいから始まる学び」の大切さに気づいたのは、YouTubeを始めたからです。僕たちが学びを題材にしつつ楽しそうに動画を撮っているのを見て「なんだかここには楽しいものがあるかも」と思ってもらえるだけでいい。ほかにも教育関連の動画はたくさんあって、新しい学びのツールの1つになりつつありますが、ファクトが甘いものも多いのでYouTubeだけを信じてはいけない。その点で僕たちは割り切っていて、ストレートな学びでは競合が多いから、9割がエンターテインメント、1割が学びです。頭からお尻までただただ楽しく見てもらって、見終わったときに単語1つくらい覚えてたら儲けもんじゃない?という考え方です。これを毎日やると、学びへの抵抗感が下がって、習慣化できる。これが狙いです。

伊沢拓司が見つけた「知る“おっくう”の壁」の壊し方

――そもそも「学び」と「楽しみ」は両立できるものでしょうか。「学びが楽しいわけがない!」と考える人もいますよね。

まったくそのとおりです。僕自身、「勉強がめちゃくちゃ好きか?」と聞かれるとそうでもないですし、中学・高校時代を振り返ると、勉強をサボっていた期間のほうが長いんです。

そもそも「知る」ことっておっくうですから。でも、何かを知って楽しく感じたり、もっともっと知りたくなったりした経験って、みんなあると思うんです。例えば音楽番組を見ていて気になるアーティストを見つけたら、ほかにどんな曲を歌っているのか、どういった経緯でデビューしたのか、インターネットで調べますよね。そこで知ればさらに楽しくコンテンツを見られるし、より知りたくなる。このループこそが楽しいから始まる学びです。ただ、このループには必ず「知る」側から入らないといけない。無から楽しさが生まれることはないですからね。だから、最初に「知る」ことのおっくうさ、いわば「おっくうの壁」を取り払おうと、僕らはあの手この手でものづくりをしています。

――「楽しい」を起点に「学ぶ」きっかけをつくる、ということですね。

僕たちの発信するWebメディアの記事やYouTubeの動画、学びを使ったゲームアプリを見て、「変なヤツがなんか変なことを言っている」「めちゃくちゃ楽しそうに数学をやっている」と楽しんでもらえたら、自然と何らかの分野に興味が湧いて、学びを得る機会ができるかもしれない。楽しければ、知ることのハードルが少しずつ下がっていくんです。これを繰り返せば「知る」おっくうさがだんだんと薄まって、積極的に学ぶ姿勢が身に付くようになる。この習慣化こそ、僕たちが目指している学びの形です。

あらゆる角度から、学びを使ったコンテンツを展開している。出演者の笑顔や盛り上がっている様子も魅力的だ(©️YouTubeチャンネル「QuizKnock」)

「面倒くさがらないこと」が教育のスタート地点

――「知るおっくう」を取り払う仕組みが重要なんですね。では、教育現場で教える側はどのように実践していけばいいでしょうか。

全国30校以上の小中高で無料講演ツアーをやっていたんですが、その過程で多くの悩みを耳にしてきました。それだけでなく、僕は進学塾でチューターをしていた経験もあって、別のことや周りの目が気になって勉強が手につかない子や、漠然とした不安で勉強に身が入らない子、どうしても勉強が楽しくない子など、受験勉強に苦しむ子をたくさん見てきた。教育ってみんな経験しているがゆえに誰でも語れちゃうテーマなので、僕がこんなことを言うのも差し出がましいし、あくまで参考程度ですが、大人が面倒くさがらないことが大事だと思っています。つねに知的にオープンであり、生徒の好奇心を歓迎して、適切に導いてあげること。「学び」の中身まで深く付き合う必要はなくて、一歩目の「知る」の壁を越えるところまでの行動を後押ししたり、正しい道を進んでいるか、後ろから見守ったりするだけでいいのかなと、まずは。

教える側が面倒くさがってしまうと、それを見た生徒も同じように感じて、「おっくうの壁」が築かれてしまいます。なので、面倒くさがらないところが学びのスタート地点だと思います。

――具体的にはどんな方法があるでしょうか。

少し教科書から外れてみることで、視野が広がる可能性があります。例えば、「ここに『猫は弥生時代から飼われていた』と書いてあるけど、ちょっと前までは『平安時代から』と書かれていたんだよ」と伝えるだけで、今も歴史の研究が進められていること、教科書も絶対ではないことがうっすら体感できます。それが新たな「学び」のきっかけになり、積み重ねによって教えられる側の世界が少しずつ広がるはずです。これはあくまで具体例ですけど、閉じている扉が少しだけ開くようなトライを小まめに続けることで、いつか成果が出るのかなと思っています。QuizKnockもコンテンツをたくさん出すことで「どれかが響くといいな」という感覚でやっています。

発想や思考は知識を土台に生きてくる、と語る伊沢さん

教える工夫が「楽しいから始まる学び」をつくる

――伊沢さんがメディアで発信される「知」やコメントも、そうした実践の積み重ねとして教える側は参考になります。今後はどのような活動を展開されるのでしょうか。

僕自身でいうと、いろんなメディアでの活動には今も予習復習が付きまといます。手持ちの知識では不十分だし、ブラッシュアップも続けなければいけない。マラソンですね。でもその姿勢こそが、今の立場で求められているのかなと思っています。むしろそれができなくなったら今の仕事の辞め時だなと思うので、一人のクイズプレーヤーそれのみに戻って、また純粋にナンバーワンだけを目指してクイズをやりたい。やっぱりクイズに生まれ、クイズに育てられてきた者として、今はクイズ業界への恩返しも、会社のメンバーのことも考えてしまうけれど、もとはただのプレーヤーですから。何より、僕自身クイズが好きなので。正直、僕より強いクイズプレーヤーはテレビに出ていないだけでゴマンといます。今はただ、テレビによく出る問題を研究して、テレビでいちばん強いんじゃないかな、というだけ。つねに1番がいいですけど、そう現実は甘くないです。逆に甘くないと知っているからいつだって勝ちたい、上に行きたいと思えるんですけどね。とはいえ今の最優先は、QuizKnockという会社を大きく成長させること。多くの人々にわれわれのコンテンツを通して、「楽しいから始まる学び」に貢献できたらいいと思っています。今はとにかくそこに集中しています。

伊沢拓司(いざわ・たくし)
1994年生まれ。埼玉県出身。 開成中学校・高等学校、東京大学経済学部卒業。中学時代より開成学園クイズ研究部に所属し、開成高校時代には全国高等学校クイズ選手権史上初の個人2連覇を達成。林先生の教え子でもある、東大卒知識モンスター。2016年に、「楽しいから始まる学び」をコンセプトに立ち上げたWebメディア「QuizKnock」で編集長を務め、登録者数160万人を超えるYouTubeチャンネル「QuizKnock」の企画・出演を行う。19年には株式会社QuizKnock設立と同時にCEOに就任。学校訪問から企業PR支援までマルチに活動するクイズプレーヤー

(撮影:大倉英揮)