「デジタル人民元」実用化を急ぐ中国の本気度 新時代の通貨は本当に米ドル覇権を脅かすのか

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中国が構想するデジタル人民元の特徴と狙いとは(写真:metamorworks/PIXTA)
中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が閉幕した。政府活動報告ではデジタルのワードが10回ほどという最大の頻度で登場している。経済社会の全面的なデジタルシフトが図られる中、デジタル時代にふさわしい通貨としてデジタル人民元の誕生が再び注目を集めている。昨年、深圳、蘇州、成都、雄安新区の4地域でその実用化に向けた実験が始まった。
今年に入ってからは北京や西安、海南など国内主要都市が加わり、中国と香港とのデジタル人民元越境決済も実証実験に入った。中国政府はこれまでに20億円超相当のデジタル人民元を配っており、オンライン・オフラインを問わず利用シーンを広げ、デジタル人民元の普及を加速しているのだ。
チャイナテック:中国デジタル革命の衝撃』を上梓した、趙瑋琳氏が、デジタル人民元と中国政府の意図を解説する。

デジタル人民元構想とは何か

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中国人民銀行は2014年からデジタル通貨に関する研究をスタートし、2017年にデジタル通貨研究所を設立した。

2019年までに、デジタル通貨研究所と中国人民銀行系列の印刷科学技術研究所、中鈔クレジットカード産業発展会社の3者が97項目の特許出願を申請するなど、デジタル通貨の発行方法やシステム、ブロックチェーン技術、デジタル通貨ICカード、デジタルウォレットなど、広範囲でデジタル通貨に関する研究は進んでいる。

現在で明らかになっているデジタル人民元構想からは、大きく3つの特徴を見て取ることができる。

特徴①通貨供給スキームが現在と同じ二重構造

1つ目は、現在の通貨供給スキームと同じで、中国人民銀行が発行し商業銀行が流通させる2層構造であることだ。中国では、中国銀行、中国工商銀行、中国農業銀行、中国建設銀行の国有銀行4行を総称して商業銀行と呼ぶ。

2層構造とはすなわち、中国人民銀行が商業銀行の準備金と引き換えにデジタル人民元を発行し、商業銀行がそれぞれの顧客の希望に応じて顧客の人民元建ての預金をデジタル人民元と交換することで、デジタル人民元を流通させる仕組みだ。

法定デジタル通貨の発行方法には、民間銀行を仲立ちとする2層構造方式のほかに、直接型方式もあるが、見送られたようだ。直接型方式とは利用者が中国人民銀行に口座を開設し、中国人民銀行が預金者に直接デジタル人民元を発行する(預金の残高をデジタル人民元に交換する)方式だ。

マネーロンダリング対策や、中国人民銀行が預金者の資金の流れを把握できるメリットがある一方で、ユーザーはデジタル人民元を利用するたびに中国人民銀行のシステムにアクセスする必要があるため、アクセスが殺到するリスクへの危惧から、採用は見送られたのだと思われる。

特徴②供給量をコントロールできる中心型

2つ目の特徴は中心型であることだ。ビットコインのような仮想通貨は分散型台帳技術(ブロックチェーン)を用い供給量の上限を定めるが、デジタル人民元は中国人民銀行が法定デジタル通貨として、現金通貨と同じように供給量をコントロールできる中心型台帳で発行するとみられている。ブロックチェーン技術の一部を採用し、匿名性と改ざんの危険性の排除は担保されている。

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