精神科医が語る「うっせぇわ現象」の読み解き方 若者をメンタル不調からどう守れるか

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コロナ禍で増えた若者の自殺。周囲の大人たちができることは何か(写真:Fast&Slow/PIXTA)

世界でメンタルヘルス(心の健康)の問題が深刻化している。世界保健機関(WHO)によると、世界では毎年約80万人が自殺している。これは40秒ごとに1人が自ら命を絶っている計算になる。いうまでもないことではあるが、自殺は家族や友人、コミュニティーに深い悲しみと計り知れない衝撃をもたらす。

WHOはさらに若者の死亡の主要な要因の1つが自殺と指摘している。日本ではコロナ禍で子供たちの自殺が大幅に増加している。2020年に自殺した小中高校生は479人に達し、過去最多となった。

アメリカでもコロナ禍で若者がうつ病になるリスクが増えている。ウォール・ストリート・ジャーナルの2020年8月12日付の記事によると、アメリカ大学保健管理協会(ACHA)などが昨年3月末から5月にかけて学生1万8764人を対象に実施した調査では、大学生の約41%がうつの症状を報告した。自殺のリスクも2019年秋の25%から27.2%に上昇したという。

筆者は昨年1月から2月にかけ、日本人約120人を含む、世界11カ国の青年約240人が参加する内閣府主催の「世界青年の船」に日本ナショナルリーダー(NL)として参加し、客船「にっぽん丸」に乗船した。その際、船上でもメンタルヘルス問題がグローバルな課題として大いに議論された。

大切な命を救い、そして、若者の精神衛生を支えるために、私たちはいったい何をどうすればよいのか。現代社会の若者のメンタルヘルスや自殺の動向を見極め、対策を考えるために、精神科医の木村好珠さんに話を聞いた。木村さんはJリーグアカデミーなどのメンタルアドバイザーを務めている。

木村さんは、今はやりのAdoさんの曲「うっせぇわ」と尾崎豊さんの1980年代のヒット曲「15の夜」とを対比し、今どきの若者は鬱憤の晴らし方がより内側にこもり出していると指摘した。

自己主張を苦手とする日本人の気質

──日本は、東アジアでは韓国に次ぎ、自殺が多い国となっています。まず、この要因についてどのようにご覧になっていますか。

日本人の気質によるものがいちばん大きいと思います。性格的な面で完璧主義であったり、なかなか人に物も言えなかったりする社会の雰囲気があります。自分の意見を言うことがすごく難しくなっています。

本当は自分の意見を言うことは全然間違っていることではないし、人に批判されることでもない。しかし、自分の意見を言うことがなかなかできない人が多い。「言うと嫌われるのではないか」と思い、自己主張を苦手にしている。そうすると、心の中にどんどんと(ストレスや鬱憤が)たまっていってしまう。

次ページ「うっせぇわ」が映し出す若者の心の叫び
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