光の速さを測ろうとした彼らの失敗が得た発見
世紀の大失敗実験、そして真理はみちびかれた

光速c、電子の電荷の大きさe、重力定数G、プランク定数h。
宇宙を支配する物理の4大定数を、NASA元研究員の小谷太郎氏がやさしく解説。
史上最も有名な失敗実験、そして天才アインシュタインの登場で、人類は光速の真理を知ることになる。
史上最も有名な失敗実験
地球は宇宙空間を疾走しています。それは光行差現象からも確かめられます。この地球の疾走は光速測定にどんな影響を与えるでしょうか。
光を地球が追いかける場合、追いつくことはできませんが、光速は地球の速度だけ遅く観測されるのではないでしょうか。そして逆に光と地球が正面衝突コースにある場合、光は速くなるのではないでしょうか。
……当たり前のことをなんだかくどくど言っているように聞こえますか?
確かに19世紀にはこれが当たり前の考えでした。そしてこの考えに基づいて、光速の変化を実際に測定する実験が行われました。これによって、地球の疾走する速度を知ろうとしたのです。
1887年、アルバート・マイケルソン(1852~1931)とエドワード・モーレー(1838~1923)は、鏡とガラスをもちいる精密な実験装置をアメリカ・クリーヴランドの地下実験室に組み上げ、この測定を行いました。
現在は「マイケルソン干渉計」と呼ばれるこの装置は、「干渉」という現象を利用して、2つの方向(例えば東西方向と南北方向)の光速の差を測るものでした。東西方向と南北方向の光速に違いがあると、これはそれぞれの光線の往復に要する振動回数の違いとなり、干渉縞(じま)の変化となって表れるのです。この実験のため、クリーヴランド市の公共交通機関が止められました。
周到な準備の後、マイケルソンとモーレーが干渉縞をのぞきこんだところ、2つの方向で光速に違いは見られませんでした。この装置は鋭敏で、地球が10km/s程度で運動していればそれが検出できるはずでしたが。
たまたま実験の日に地球が宇宙に対して静止していた可能性を考慮して、実験は半年後にもう一度繰り返されました。しかし結果は同じでした。マイケルソンとモーレーは、光速の変化を検出することができませんでした。実験装置がどんな方向にどんな速さで動いていても、光速の測定値は変化しなかったのです。
これは一体どういうことでしょうか。どう解釈すればいいのでしょうか。マイケルソンとモーレーと世界中の研究者は頭をかきむしりました。