電気自動車普及のカギを握る電池技術の現在地 全固体電池への過度な期待は禁物

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アメリカ・テスラでも年間販売台数はようやく50万台。さらなるEV普及のカギを握るのは電池の進化だ(写真・尾形文繁)
カーボンニュートラル(二酸化炭素排出の実質ゼロ)社会実現の機運が高まる中で、自動車の電動化は加速している。中でも電気自動車(EV)への期待と注目は日に日に高まっている。一方、EVが従来の自動車を完全に置き換えられるようになるにはもう少し時間がかかりそうだ。
インフラ側では、充電スタンドの整備や電力のカーボンニュートラル化といった課題がある。EV側では、航続距離の短さ、充電時間の長さ、安全面での不安、コストの高さなど課題が残されている。特にEV自体の課題のほとんどは、電池(リチウムイオン電池)に起因している。リチウムイオン電池が現在抱える課題や今後の可能性について、電池材料研究で最前線に立つ東京大学工学研究科の山田淳夫教授に聞いた。

――現在、EVの主流となっているリチウムイオン電池の最大の課題とは何でしょうか。

課題は数多くあるが、一番はコストかもしれない。大量生産やプロセス革新が進めばコストは徐々に低下していく。一方、リチウムや希少金属の供給が逼迫する可能性もあるので、どのあたりでコストダウンが頭打ちになるかを見極めていく必要がある。

固体なら燃えないわけではない

――液体の電解質を使う現在のリチウムイオン電池に対し、固体の電解質を使う「全固体電池」になれば、エネルギー密度、信頼性、耐久性、安全性の問題がすべてクリアされるとの期待が高まっています。

研究開発現場に近い人たちや有識者の多くは、そう話は単純だとは思っていない。数ミリ角の超小型チップ電池がすでに実用化されているが、EV用とはまったく別物と考えるべきだ。

――何より重要な安全性が高まるのではないでしょうか。

一般的には液体の電解質は燃えやすく、固体の電解質は燃えないと思われがちだが、大型全固体電池用に検討されている固体電解質は可燃性が高い。安全性には燃焼リスクだけでなく、毒性や腐食性など他の重大なリスク要因が含まれ、トータルできちんと認識する必要がある。

――全固体電池は性能が劇的に高まるのではないのですか。

センセーショナルな記事やそれを煽るメディアが、やや一人歩きしているように見える。比較的冷静に分析している一般向けの記事(https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/all-solid-state-batteries/)もあるので紹介しておく。

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