緩くてぬるい今の時代に「石岡瑛子」が必要な訳 気鋭のアートディレクターは何が違ったのか

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──伝説の経営者と石岡さん、天才2人の奇跡のタッグが共振し生み出されたもの、とばかり思っていました。しかし裏では、経営者とクリエーターの熾烈なバトルがあった、と推察されていますね。

昔も今も、いや今はもっとですが、表に出せない舞台裏がある。けど、瑛子さんが当時書いたものや話した内容を読むと、端々から葛藤は伝わってきますね。僕はそれがやっぱり必要だと思うんです。

ガチンコバトルで最終的には決裂にまで至るような熱い関係性を、日本の企業とクリエーターは忘れているんじゃないかと。経営者や新しい事業を創造しようという人が、パルコという当時のイノベーションを通して、本当に世の中に伝わるものを生み出すには、ここまで熱い結束や衝突が必要なんじゃないか、と。

日本のクリエーティビティーは年々凋落している

──単に広告宣伝の話ではない?

クリエーティブは単なる装飾ではなく、その企業の存在自体をつくっていくもの、ということです。

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十数年取材していて、日本のクリエーティビティーが年々凋落しているのを実感します。そこでの成績不振は、企業がクリエーティブというものを有効活用できていないという証し。そのことで成長の機会を失っているのではないか。そんな視点を欠いたまま、生産性がどうとかと言ってるこの状況って何なんだろうと。

──クリエーティビティーが生産性に直結すると。

企業の戦略、ビジョンをエンパワーするのはデザインであり、クリエーティビティーです。パルコは石岡瑛子という人をものすごく上手に使ってやり遂げた。その関係性は当時でも希有でした。今、日本でその重要性を認識している会社ってあるのかな。ナイキやP&G、ユニリーバなどグローバル企業の列強はそれができていて、何十年かのスパンでサバイブしていくと思う。大海に投じる小石ではあるけれど、日本の経営者に気づいてほしい、そんな意図を込めました。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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