──伝説の経営者と石岡さん、天才2人の奇跡のタッグが共振し生み出されたもの、とばかり思っていました。しかし裏では、経営者とクリエーターの熾烈なバトルがあった、と推察されていますね。
昔も今も、いや今はもっとですが、表に出せない舞台裏がある。けど、瑛子さんが当時書いたものや話した内容を読むと、端々から葛藤は伝わってきますね。僕はそれがやっぱり必要だと思うんです。
ガチンコバトルで最終的には決裂にまで至るような熱い関係性を、日本の企業とクリエーターは忘れているんじゃないかと。経営者や新しい事業を創造しようという人が、パルコという当時のイノベーションを通して、本当に世の中に伝わるものを生み出すには、ここまで熱い結束や衝突が必要なんじゃないか、と。
日本のクリエーティビティーは年々凋落している
──単に広告宣伝の話ではない?
クリエーティブは単なる装飾ではなく、その企業の存在自体をつくっていくもの、ということです。
カンヌ映画祭の広告業界版「カンヌライオンズ」をご存じですか? 世界最大級の広告賞で、3万~4万点のキャンペーンやプロジェクトがグランプリを競う大イベントです。
十数年取材していて、日本のクリエーティビティーが年々凋落しているのを実感します。そこでの成績不振は、企業がクリエーティブというものを有効活用できていないという証し。そのことで成長の機会を失っているのではないか。そんな視点を欠いたまま、生産性がどうとかと言ってるこの状況って何なんだろうと。
──クリエーティビティーが生産性に直結すると。
企業の戦略、ビジョンをエンパワーするのはデザインであり、クリエーティビティーです。パルコは石岡瑛子という人をものすごく上手に使ってやり遂げた。その関係性は当時でも希有でした。今、日本でその重要性を認識している会社ってあるのかな。ナイキやP&G、ユニリーバなどグローバル企業の列強はそれができていて、何十年かのスパンでサバイブしていくと思う。大海に投じる小石ではあるけれど、日本の経営者に気づいてほしい、そんな意図を込めました。
ログインはこちら