コロナ禍を地球の警鐘として利する人への疑念 善と悪の対立構造を作り出す強力な動機付けに

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ピンカーは1つ目に「認知」を挙げる。

世間の人々は、規模で考えることが苦手で、どの行動がどれだけの二酸化炭素の排出量を削減するのか、それは何千トン、何百万トン、何十億トン規模なのかを区別していないと指摘。さらに濃度や割合、その変動ペース〔速度〕、ペースの変化率〔加速度〕などの違いについても無頓着であるという。つまり、「最新の情報を知ったうえで、変化の規模や種類についても考えなければ、何一つ成果の出ない政策をよしとすることになりかねない」とクギを刺すのである。

例えば、手紙に記されていた飛行機の原則禁止の提案だが、「飛び恥」という言葉に象徴されるように、欧州の若者を中心にちょっとしたブームになった。だが、温室効果ガスの排出の内訳をみると、重工業20%、建設業18%、運輸業15%などで、航空機は1.5%にすぎない。ピンカーは手紙の差出人がこのような言動を行うのは、「効果のためではなく犠牲的精神のためである」と言い、これが2つ目の心理的障害である「道徳感覚」につながってくる。

ピンカーは以下の主張を展開している。

人の道徳感覚というのはあまり道徳的ではなく、そのせいで非人間的になったり(「政治家は愚にもつかない生き物だ」)、懲罰的な攻撃へと向かったりしてしまう(「環境破壊の張本人に払わせる」)。また浪費は悪で禁欲は美徳だという考えが結びつくことにより、無意味な犠牲を誇示し、それらの犠牲を神聖化することにもなる。(前掲書)

魔女狩りや犯人捜しを誘発する因子

ピンカーは現代社会においてもこの傾向は変わらないと述べ、複数の心理学者とともに行った研究では、人が他人を評価する基準は、「利他的な行動をとるなかでどれだけ多くの時間とお金を犠牲にしたか」であり、達成した福利の大きさや量はあまり評価されていなかったことを強調している。

これは、いわゆる魔女狩り、犯人捜しを誘発する因子といえるものであり、「浪費は悪で禁欲は美徳だという考え」が「資本主義」や「超富裕層」、果ては「(すべての人々の心の中にある)強欲」の否定といった抽象的な次元にまで拡大していくのである。要するに、貴重な資源である地球を搾取し、汚染しているのは誰なのかとなり、これが善と悪の対立構造を作り出す強力な動機付けとなってしまう。

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