JALの金庫番が明かす「大型増資」決断の舞台裏 昨年秋に1800億円超の資金調達に踏み切った

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JALの財務トップである菊山英樹・専務執行役員は、昨秋実施した公募増資について「環境が激変したときに、もう二度と打って出られなくなるリスクを天秤にかけた結果だった」と振り返る(撮影:今井康一)
新型コロナウイルスの感染再拡大を受け、年末年始の前後に旅行喚起キャンペーン「Go To トラベル」の運用が停止された。さらに、政府は1月7日、東京と神奈川、埼玉、千葉の首都圏4都県を対象に緊急事態宣言を発令。これを受け、Go To トラベルの停止期間も、緊急事態宣言が解除される2月7日まで延長される。
これに頭を抱えるのが航空業界だ。各国で出入国制限の緩和が進まず、2020年10月時点でも国際線の旅客数が前年同月比3.4%と低迷。一方、Go To トラベルで需要が押し戻された国内線は、最初の緊急事態宣言が発令された5月の同6.6%で底を打ち、10月には同49.6%まで回復していた。緊急事態宣言の再発令によるGo To トラベル停止と、移動マインドの低下により、国内線需要は再び冷え込むことが見込まれる。
この不透明な事業環境を航空大手はどう乗り切るのか。市場関係者の意表を突く大型増資の実施や、国内最大手・ANAホールディングスとの統合説でも注目を集める、日本航空(JAL)の財務トップである菊山英樹・専務執行役員に聞いた。

非常に厳しいことは間違いない

――国際線旅客数が前年比5%前後と低水準の中、順調に回復してきた国内線もまた、緊急事態宣言の再発令を受け、Go To トラベルの停止や渡航マインドの低下が見込まれます。

2020年10月末の中間決算発表の際に、(期初から未定としてきた)業績予想を開示した。その前提となる(旅客の)需要想定も幅をつけて示したが、足元ではその下限にも達しない状況になりつつある。

11月の国内線(の旅客数)は当初、とくにGo To トラベルの恩恵を受けて、対前年で6割を超えそうな勢いだった。しかし、北海道から感染が広がってきて、少しずつ需要が落ち、(需要想定の)下限くらいになった。

12月はGo To トラベルの一時停止を受け、下限(への到達)も難しい。一時停止が発表されるまでは、ざっくり予約全体の3割くらいがGo To トラベルの利用客だった。非常に厳しいことは間違いない。

――緊急事態宣言の引き金となったコロナ第3波が到来する直前の2020年11月6日、公募増資などの実施を発表し、計1826億円の調達を決めました。​

びっくりしました?

――同じく公募増資を実施したANAは、まず事業構造改革を示し、再成長に向けたプランの周知期間を置いて、1カ月後に公募増資を発表する、といったプロセスでした。

(記者が)驚いていらっしゃるのは、議論する材料もないのに、増資だけするのかという、ネガティブな意味のびっくりですよね。いろいろな受け止め方をされたのは事実で、驚いたという方は多い。

中期経営計画などで示す経営努力のストーリーがないというのは、確かに(公募増資の)定石から外れているのかもしれない。ただ、中期経営計画を年度末に発表するイメージでいたので、これでは公募増資の議論をしていた時期から半年先の実施になってしまう。

経営の中で「半年後に何が起きているかわからない」「だからといって何も示さず増資するのは無責任じゃないか」という議論を経て、環境が激変したときに、もう二度と(公募増資に)打って出られなくなるリスクを天秤にかけた結果だった。これはもう結果論なので、振り返ってみればこのタイミングでよかったということだ。

この記事の続きはこちら。『東洋経済プラス』では、短期連載「航空異変」で以下の記事を配信しています。
財務データでわかる「大赤字」 ANAとJALの格差
「破綻」は避けられるのか ANAが迎える正念場
JALが先手「増資」1680億円の胸算用
エアアジア撤退、消える「第3のエアライン」
森田 宗一郎 東洋経済 記者

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もりた そういちろう / Soichiro Morita

2018年4月、東洋経済新報社入社。ITや広告・マーケ、コンサル、エンタメ産業などを担当。過去の担当特集は「アニメ 熱狂のカラクリ」「氾濫するPR」「激動の出版」「パチンコ下克上」など。

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