広島地検の若手検事はなぜ自ら命を絶ったのか 過去2年で4人が自殺、問われる検察組織の実態

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厳しい司法試験をパスし、誇りを持って仕事に臨んでいた若手検事。直属の上司である公判部長の決裁は通ったはずなのに、その上の次席検事から厳しい叱責を受けたことに、強いわだかまりと無力感を覚えたのだろうか。友人に送ったメッセージでは、心の内をこう吐露している。

「P(検事)なったの間違ったかな。ダメだ」(2019年12月4日)

「泣きすぎだな。」(同6日)

「明日からに、怖さを感じている俺は、もはや末期なんだろうか」(同8日)

調査結果に職員から不満の声

広島地検は若手検事の死を受けて内部調査に乗り出し、総務部長がヒアリングを始めた。しかし、身内による調査に疑問の声が上がったため、代わって上級庁にあたる広島高検が、公判部をはじめとして関係職員へヒアリングなどを行った。

自殺した広島地検の若手検事のLINEには、生々しいやりとりが残されていた(遺族提供、プライバシー保護のため一部をモザイク処理しています)

地検の職員らにその結果が伝えられたのは、2020年3月のことだった。地検の総務部長らが現場職員に口頭で「原因はよくわからない。体調不良を訴えていたので、それが原因かもしれない」と説明した。

橋詰氏によれば、この説明に対し、「誰がこんな結果に納得するのか」と不満の声を上げる地検の職員が少なくなかったという。

公判部に所属する検事は、刑事部で起訴された事件を引き継ぎ、被告が犯した罪に相応する判決を得るために裁判に立ち会い、事件の立証をするのが仕事だ。裁判所に起訴事実を認めてもらうため、十分な論理構成を整えた書類を作成しなくてはならない。とりわけ被告側が争う姿勢を見せた場合は、それを覆すだけの準備が必要で、業務量もおのずから増えていく。橋詰氏が言う。

「亡くなった検事は作業に手のかかる事案を数多く担当していました。勤務時間は公判部でも相当多かったはずです。それでも当時の公判部長は、『何とかしてね』という趣旨を言うだけで、業務を割り振るなどの配慮はありませんでした。私も、彼の様子がおかしかったことをもっと深刻に受け止めるべきでした」

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