メディアが成長率の計算間違いを訂正しない訳 足して割るだけが「平均」の計算ではない

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「いざなぎ景気」の成長率がなぜ2種類あるのか。不思議に思って考えたところ、「11.5%」は「相乗平均」の発想で正しい答えであるが、「14.3%」は「相加平均」の発想で誤りであることがわかった。

平均成長率と平均身長は異なる

「いざなぎ景気」は4年9カ月続いたのだが、その間に日本経済は67.8%成長した。この事実を基に正答・誤答それぞれの計算方法をたどってみよう。

まず「いざなぎ景気」の年平均成長率は14.3%という誤答は、次のようにして求められている。4年9カ月は4.75年なので、

67.8÷4.75=14.27…

四捨五入して14.3というわけである。

この計算は相加平均という考え方に基づいている。相加平均とはn個の数値を合計してnで割って求めた平均である。「算術平均」ともいう。

例えば、5人の生徒の身長が、

152cm、147cm、159cm、143cm、154cm

であるとき、平均身長は、

(152+147+159+143+154)÷5=151(cm)

と、算出される。これが相加平均である。

「いざなぎ景気」の年平均成長率を相加平均で求め、検算してみると、おかしなことになる。もし年平均成長率が14.3%だとしたら、4年間での成長は前年比で毎年14.3%伸びるので、(1+0.143)の4乗になる。

だが、

1.143の4乗=1.143×1.143×1.143×1.143=1.70…

であり、4年間ですでに70%を超えてしまうのである。これは「4年9カ月で67.8%成長した」という事実と矛盾する。

一方、正答の「11.5%」はどのようにして導かれるのか。

まず、GDP成長率は、1年を1~3月、4~6月、7~9月、10~12月の4つに分けた各四半期データを基に算出されている。

仮に第1四半期で1%、第2四半期で2%、第3四半期で5%、第4四半期で3%成長したとしよう。その場合、その年の成長率を、

1+2+5+3=11(%)

だと考えることは誤りだ。

そうではなく、

1.01×1.02×1.05×1.03=1.1141613

なので、(1.114-1)×100と計算して、約11.4%成長したと考えるのが正しいのである。

四半期、すなわち3カ月ごとの単位で考えると、「いざなぎ景気」の4年9カ月は3カ月が、

4×4+3=19(個)

あることになる。

いま、19乗して1.678(67.8%成長)になる数値を求めると、

1.0276の19乗≒1.677

なので、4年9カ月で67.8%成長した「いざなぎ景気」の3カ月単位の平均成長率は約2.76%ということになる。

3カ月単位を1年単位にすると、

1.0276の4乗=1.115…

となる。「いざなぎ景気」の年平均成長率は11.5%が正しい答えになるのである。

次ページメディアに誤りを伝えると…
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