日本製鉄、CO2削減目標の「数値」をどう出すか 50年に「排出ゼロ」」実現はほぼ不可能なレベル

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日本製鉄の君津製鉄所(写真:日本製鉄)

「日本製鉄としてどれだけCO2を減らすのかというビジョンを示さないと国際的なファイナンスの世界では評価されない状況になっている。そこ(数値目標)は出していく方向で社内でも議論している」。この夏、日本製鉄で環境を担当する鈴木英夫常務はそう話していた。

「日鉄 50年に排出ゼロ」――。12月11日、日本経済新聞は一面でそう報じた。記事は「日本製鉄は2050年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする方針を決めた」と続く。10月26日に菅義偉首相が所信表明で、2050年の温暖化ガス排出量の実質ゼロ(カーボンニュートラル)の目標を打ち出したことを受けて、大手企業が積極的に脱炭素に動き出したという内容だ。

これに対し日本製鉄は「何も決定していません。中長期での温暖化ガス排出削減目標は、今年度内(2021年3月まで)の公表に向けて検討中です」と回答するのみ。日本製鉄の説明に歯切れが悪いのは、CO2排出の実質ゼロのハードルがとてつもなく高い、もっといえば現時点では2050年の実現はほぼ不可能という現実がある。

JFEは「2050年以降のできるだけ早い時期」

実際、JFEホールディングスが2020年9月30日に公表した目標は、2030年度のCO2排出量の20%以上削減(2013年度比)と2050年以降のできるだけ早い時期にカーボンニュートラルというもの。国内鉄鋼メーカー2位のJFEでもカーボンニュートラルは「2050年以降のできるだけ早い時期」と曖昧にしているのだから、日本製鉄でも状況は同じだろう。

実現が困難でも明確な数値目標を掲げて、そのこと自体を起爆剤に実現を目指すべきだという考え方はある。一方、実現性がまったく見えない数値目標を打ち出すことは無責任という考え方もある。欧州企業は前者、日本企業は後者の考え方が主流だ。慎重な日本企業に対し、温暖化対策に後ろ向きであると批判の声もある。CO2を大量に排出する鉄鋼の低炭素化は急務とはいえ、ゼロ=脱炭素は軽々しく口にできるものではない。その現実だけは理解しておくべきだ。

いずれにしても、産業界でCO2排出量が最も多いのは鉄鋼業界である。日本製鉄が今年度中にどのような数値目標を出すか。注目度が一段と高まっていることは間違いない。

週刊東洋経済(2020年8月1日号)では『脱炭素待ったなし』を特集。週刊東洋経済プラスでは以下のインタビューを無料でお読みいただけます。
日本製鉄の鈴木英夫常務に聞く「CO2削減の目標を出すべく議論している」
山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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