専門家が指摘する議決権“集計外し"の根本原因 株主総会の実務に詳しい中島茂弁護士に聞く

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大手信託銀行で判明した議決権行使書の不適切な取り扱い。単なる事務処理のミスでは済まない。写真はイメージです(編集部撮影)
今年9月、上場企業の株主名簿管理人である信託銀行が、株主総会で数えるべき一部議決権を集計していなかったという前代未聞の事態が明らかになった。
問題発覚の直後こそ大きく報じられたものの、早々にトーンダウンした。だが、今回の問題を単に信託銀行の事務処理ミスと片付けていいのか。株主総会の実務に長年かかわってきた中島茂弁護士に聞いた。

 

――株主総会前日に配達された議決権行使書で、実際には届いているにもかかわらず、翌日扱いとして集計から外すことが20年近く続いていました。このことを聞いてどのように感じられましたか。

非常に驚いた。事前の書面による議決権行使の締め切りは、株主総会前日の営業時間となっている。(総会実務の現場では)「営業時間とは何時までだ」、「夕方の5時半までと明記したほうがいいんじゃないか」といったように神経を使ってやってきた。それがそもそもカウントしていなかったというのだから。

――なぜ、こうしたことが起きたと思われますか。

1980年代の株主総会のやり方をずっと引きずっていたのだと思う。つまり、株主総会は出席する株主の(議決権の)過半数(の賛成)を確保すればいいんだ、という考え方だ。

そのため、(会社は)安定株主から議決権行使書や白紙委任状をもらって、総会の2、3日前には会社提案議案への賛成を6、7割確保した状況で当日を迎えることを重視する。だから、締め切りの前日、土壇場で届いた行使書によって1~2%動いても大丈夫だと軽視していたのだと思う。

信託銀行の認識が足りなかった

しかし、世の中は変わった。議案の可否に影響しないから集計しなくてよいという考え方はもはや通用しない。そのように変わったのはコーポレートガバナンス・コード(CGC)の影響が大きい。CGCでは、株主総会で可決されたとしても、相当数の反対票が投じられた会社提案議案があった場合、その分析を行い、株主への対応を考えるべきだと定めている。

しかも、近年は議決権行使の結果を開示するようになった。取締役同士が「あなたは賛成率が93%でしたね。私は92%でした」と会話するなど、細かい賛成率を気にしている。

そうした世の中の変化を、信託銀行がわかっていなかった。株主の意見をきちんと聞いて、経営に反映させていくというガバナンスの考え方に即していないという批判は当然受けるべきだ。

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