ぜんそく患者「コロナ禍で急減」という衝撃事実 予防や服薬など患者の行動変容が引き起こした

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新型コロナをめぐるデータベースの研究が想定外の結果を導き出した(写真:patchii/PIXTA)

新型コロナウイルス(COVID-19)流行期に、「ぜんそく(喘息)」による入院患者数が急減したことがわかった。

気管や肺に感染するウイルスは一般に、ぜんそくを悪化させると知られている。そこで、新型コロナも同様にぜんそくのコントロールを増悪させると考えられ、医療関係者の間では、新型コロナ流行当初、ぜんそくの入院患者数が増加する可能性が危惧されていた。

これは大規模診療データベースを分析する研究で判明した事実だ。大規模診療データベースの研究による想定外の結果は、これまで医療で“当たり前だったこと”を見直す機会になるかもしれない。

手指消毒やマスク着用が効いている?

この診療データベース研究は、東大大学院医学系研究科・公衆衛生学教室の宮脇敦士助教らのチームと、データック代表取締役CEO兼医師の二宮英樹氏が共同で行ったものだ。ぜんそく入院患者数の減少は、新型コロナからの感染予防行動だった手指消毒や、マスク着用による花粉などのアレルゲンへの暴露(さらされること)の減少が主な要因だと推測される。

(外部配信先ではグラフを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

今回の研究では、メディカル・データ・ビジョンの国内最大規模の診療データベースを用いた。この研究の論文は、アメリカアレルギー・ぜんそく・免疫学会(AAAAI)の公式学会誌『The Journal of Allergy and Clinical Immunology:In Practice』誌オンライン版に2020年10月13日付(日本時間)に掲載された。

公衆衛生を専門にする宮脇助教は新型コロナが流行する中で、世界的に知られる医学雑誌『The Lancet』の姉妹誌である『Lancet Respiratory Medicine』の記事で、アメリカの小児病院の救急外来でぜんそくにより受診する患者が減ったとする調査研究を目にし、驚いた。その後、欧州の人口200万人超のスロベニアにある小規模病院でもぜんそくの入院が減少していることなどを耳にした。

ところが、これらの研究の中には、年齢別の傾向などがはっきりしないものもあった。そのため宮脇助教は大規模診療データベースを用いて、年齢階層別などの詳細な研究をしたいと考えていた。

今回の診療データベース研究は全国272病院の2017年から今年(2020年)の1月から5月の間にぜんそくを主病名に持つ入院患者数の週ごとの推移を調べた。例年、春先(年初からの第9週=3月上旬以降)から初夏にかけて、ぜんそく入院患者数は増加する傾向があるにもかかわらず、今年はちょうど同時期にあたる、新型コロナ流行期のぜんそく入院患者数は、例年に比べ約半減した。この傾向は、18歳未満の子ども、成人ともに認められた。

新型コロナ流行期にぜんそく入院患者数が大幅に減少したことについて宮脇助教は、「ぜんそくに対する薬剤は、吸入ステロイド剤が一般的になっている。コロナ禍で、同剤の効能が急激に改善したとは考えられない。そうするとぜんそく患者が減ったのは、感染予防行動の波及効果や患者の服薬コンプライアンス(薬剤規定どおりに服薬すること)が向上したことも理由として挙げられる」と分析している。新型コロナが、患者の行動変容を引き起こしたと考えてもいいだろう。

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