主唱者が語る「MMTとアメリカ政治との距離」

大統領選挙後に財源をめぐる政治闘争が起きる

ステファニー・ケルトン(Stephanie Kelton)/ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校教授。2016年と2020年のアメリカ大統領民主党予備選挙でバーニー・サンダース議員の政策顧問を務めた。
インフレリスクを除けば、国家は自国通貨建ての債務をいくらでも増やせると主張するMMT(現代貨幣理論)。その主唱者であるステファニー・ケルトン教授の新著『財政赤字の神話(原題:The Deficit Myth)』は今年6月にアメリカで出版されるや、NYタイムズベストセラーになった。
11月3日の投票日が近づくアメリカ大統領および上下院議員選挙だが、仮にバイデン候補や民主党が勝てば、彼らの選挙公約を実施するために大規模な財政赤字は避けられない。アメリカでも存在感を高めつつあるMMTと政治の関係は今後、どうなるのか。ケルトン氏に話を聞いた(オンラインでのインタビューは10月19日実施)。
なお、今回のケルトン氏のインタビューは、アメリカ政治との関わりから中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)や増税トリガー条項の有用性、国際通貨体制、経済学説史にまで及んだ。『東洋経済プラス』では、「主唱者ケルトン教授が語るMMTのすべて」としてロングインタビュー(全3回)と解説記事を掲載している。

コロナ危機で国家債務への見方は大転回した

――新著『財政赤字の神話』は、アメリカでベストセラーになりました。MMTの属するポストケインズ学派は、これまでマイナーな存在でしたが、なぜ急に多くのアメリカ人に読まれるようになったのでしょうか。

まさに読まれるべきときに出版されたのが大きいと思う。

まず2019年を振り返ると、アメリカ大統領選挙に出馬した民主党候補者は23人にも上り、バーニー・サンダース氏や(その後副大統領候補になった)カマラ・ハリス氏を含め、たくさんの候補者が演説で国民皆医療保険創設や学生ローン債務免除、グリーンニューディール(脱炭素化関連の公共事業)などのインフラ投資事業を選挙公約に掲げた。

その際、どの討論番組でも「では、財源はどうしますか?」という質問が発せられた。2019年を通じて、政治討論でアメリカ全体を支配した最大の質問は「お金をどこから持ってくるのか」だった。「政府が何かをやるとき、財政赤字をあてにすることはできず、誰かの税金を見つけてきて、それで新たな支出を相殺しなければならない」という考えがすべての議論のベースにあった。

ところが2020年3月に新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)が起きると、議会は何兆ドルもの財政支出法案を可決させた。一瞬にして「財源はどうするのか」という質問は消えてしまったのだ。

それを目の当たりにした人々は、「議会はヘルスケアや教育、学生ローン問題への支出を優先的な政策とみなさず、予算を通さなかったが、新型コロナウイルス対策ではそれをやった。今回できたなら、ほかの優先的な政策でもできるはずだ」と理解しはじめた。

MMTは常々、実体経済の供給能力を超えた過剰支出によってインフレを起こすことは回避しなければならないが、インフレでなければ、(財政赤字を気にせずに)政府は優先的な政策にお金をたくさん使っていいと言ってきた。コロナ危機によってその主張が注目され、多くの人が新著を手に取ってくれた。

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