アメリカの中国への相互主義に危うさも潜む訳 わかりやすさと力強さは魅力だが両刃の剣にも

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アメリカの相互主義は中国への武器となるが……(写真:da-kuk/iStock)
米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。
独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

米中対立が深まる中、アメリカによる「相互主義」に基づく対応が増加している。相互主義とは、外交・通商関係において、相手国の自国に対する待遇と同等の待遇を与えようとすることだ。

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9月2日、アメリカのポンペオ国務長官は「米中外交関係の相互主義の促進について」(Advancing Reciprocity in US-China Diplomatic Relations)という声明を発表した。この声明は、「相互主義」(Reciprocity)の原則に基づき、中国外交官のアメリカでの行動をこれまでよりも制限することを明らかにした。

声明でアメリカは、中国がアメリカの外交官に対して通常以上の行動の制約を課し、アメリカ外交官の業務を阻害してきたと非難。アメリカの要求にもかかわらず状況を改善しないために今回の措置に至ったと説明する。そのうえで、中国の外交官が大学を訪問するとき、地方政府職員と面会するときなどに、アメリカ国務省の承認を求めるとした。なお、中国がアメリカの外交官に対する制限を緩めれば、アメリカも制限を緩めると付言する。

記者の追放合戦

今年発生した米中の記者の追放合戦も「相互主義」的対応の1つだ。今年2月のウォールストリート・ジャーナルによる「中国はアジアの真の病人」“China is the Real Sick Man of Asia”という評論(op-ed)に怒った中国は、同紙記者の一部を追放。アメリカ側もアメリカにおける中国人記者の数を制限した。これに対して、中国はウォールストリート・ジャーナルの記者数をさらに減らし、またニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストの記者数も制限した。その後、アメリカは中国の記者のビザを90日に短縮し、また追加で4つの中国の新聞社を外交使節に指定し管理を強化する。結局双方とも相手の記者を削減させた。

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