「加害者の人権ばかり守るな」と叫ぶ人の盲点

どちらか優先ではなくどちらも別々に守られる

裁判員に選ばれる確率は「約65人に1人」。決して他人ごとではありません(写真:Zolnierek/iStock)
一般市民が裁判官とともに刑事事件の審理をする「裁判員制度」。自分には関係ないと思っている人も多いかもしれませんが、一生のうちで裁判員に選ばれる確率は「約65人に1人」。決して他人ごとではありません。伊藤真さんの『なりたくない人のための裁判員入門』は、意外と知らない裁判員制度のしくみや問題点をわかりやすく解説した入門書。いざというとき困らないために、知っておきたい知識が詰まった本書から、一部をご紹介します。
※記載されているデータや制度は書籍刊行時のものです

誤解されている刑事裁判の役割

無惨な殺人事件が起きれば、誰でも被害者やその遺族に同情します。その気の毒な人々を脇に置いたような形で裁判が行われるのは、どうしても納得がいかない。その心情は、私もわからないわけではありません。刑事裁判への批判として、「加害者の人権ばかり守って被害者の人権を蔑ろにしている」という声もよく聞きます。

「幻冬舎plus」(運営:株式会社 幻冬舎)の提供記事です

しかし、犯罪の被害者が十分なフォローを受けていないとすれば、それは刑事裁判が間違っているせいではありません。それとは別に、犯罪被害者の損害や苦痛を軽減させるような制度がほとんど存在しないことが問題なのです。

これまで日本は、犯罪の被害を「個人の不幸」として片付けてしまう傾向がありました。そのため被害者は、周囲のプライベートな援助や同情を受けながら、自力でその苦難を乗り越えるしかなかったのです。いわゆる先進国の中で比較しても、日本ほど犯罪被害者をケアする公的制度が遅れている国はありません

しかし、今日の社会では誰もが等しく犯罪の被害に遭う危険にさらされているのですから、それを個人だけに負担させるわけにはいかないでしょう。社会全体の問題と考え、国民みんなで引き受けるべきだろうと思います。貧困や失業などの問題と同様、国家が福祉政策の一つとして取り組んではいけない理由などありません。

それを政治や行政が真正面から取り上げてこなかったからこそ、被害者は刑事裁判に期待せざるをえない状況に立たされていました。裁判員制度を通じて「被害者を救済しよう」と考えてしまう人が多いのも、それが原因です。

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